相談窓口を設置して、実際相談が来たとき、窓口が聞かなければならないことは、大きく分けて2つです。ひとつは、事実、もう一つは、被害者の気持ちです。
事実を聞くのは簡単だと思われているかもしれません。実際あったことを、そのまま言えばいいわけですから。しかし、複数人に同じ映像を見てもらい、1週間後に、その映像を見ていない人に、どんな映像だったかを説明してもらうと、それぞれが違う説明をしてしまう、なんてことがあります。研修で、これを体験してもらうのですが、みなさん、驚かれます。
なぜそうなるのか。まず、人間の記憶は、時間がたつにつれ、変化していくものであるということです。つまり覚え間違いですね。これは、間違って覚えているよりも、正しく覚えていて、後で記憶が変換されたケースが多いんです。人間の頭は、記憶をそのまましまっておくことができません。自分に都合がいいように、なんらか変換して記憶するんですね。
さらに、人間は、すべてを記憶できません。自分が見たものしか覚えられないんです。しかも、自分が興味あるものしか見ようとしない傾向(バイアス)がかかります。ですので、見落としが必ず出てきます。その見落としが重要なものであったら、重要な事実を語っていないことになります。だから、その人が、事実を説明しているつもりでも、実はそうでなかった、なんてことが起こるんです。
ですので、事実を知りたいのなら、ひとりの人からの聴取だけで判断せずに、当事者のどちらにも聴取するのは当然のこととして、まわりの人やご家族など、できるだけ多くの人から事情聴取をする必要があります。
気持ちを聞くのも、簡単だと思われるかもしれませんね。大人なんだから、自分の気持ちはわかっている前提ですし。しかし、実は、自分の気持ちって、自分ではわからないことが多いんです。そもそも人間は、言葉で感じるのではありません。自分の気持ちに言葉を当てはめるんですね。時に人は、自分の気持ちに、違う言葉を当てはめてしまうことがあります。たとえば、怒っているのに「冷静だ」という言葉を当てはめてしまうことはありますね。だから、まわりの人から見たら、明らかに怒っているのに、自分は怒っていると思っていない(だから、自分の怒りの感情をちゃんと把握するのが、アンガーマネジメントの第一歩です)。なので、自分の気持ちを正確に言葉にできるとは限らないんです。
さらに、自分の気持ちを話すと、自分に不利になると思うと、正直に気持ちを話せません。先ほどの怒りについても、ここで怒ってはいけない場面で怒ってしまったら、その怒りの気持ちを隠そうとしますよね。すると、自分は怒っていないと思いたいわけで、それがバイアスになって、自分の気持ちがわからなくなる。素直に怒りを表現していい場面なら、そんなバイアスがかかることはありません。ですので、自分の気持ちを、なんでも正直に表現できる場が必要になります。
ということで、人から事実や気持ちを話してもらうのは、思いのほか難しいんです。
ではどうすればいいのか。実は、カウンセリングは、人から事実や気持ちを話してもらうために、いろいろな手法を編み出しています。傾聴なんかも、その一つです。傾聴やほかの手法については、長文になりましたので、稿をあらためます。
傾聴については、こちらにまとめてあります。あわせてご覧ください。
相談窓口の運営や、相談技術の向上などのご相談を、社労士でカウンセラー、公認心理師である私が承っております。ぜひ、お気軽にお問い合わせください。