歯医者さんの治療で一番嫌な治療は
深くまで進んだ虫歯の治療でしょう。
虫歯は早期発見早期治療をしていれば
そうそう悪くならないのですが、
発見が遅れると治療は大変になります。
日本の場合、保険治療で早期虫歯治療で終われる場合は、
虫歯の大きさによって(窩洞という概念)、単純窩洞と複雑窩洞の2パターンです。
自己負担金3割負担でだいたい1,500円くらいで即日終了可能です。
エナメル質の範囲内の浅い虫歯では削られても全く痛みがありませんから
麻酔も不要ですし、
治療は単純で綺麗に仕上がります。
エナメル質は接着修復が簡単に可能なため
治療難易度が非常に低く
誰がやってもトラブルが生じにくい治療になり安心安全な治療です。
ところが、エナメル虫歯のうちは
経過観察をしましょうねという場合があります。
患者さんが虫歯になっていますよと歯科医院で指摘されて以降、
歯磨きの仕方を丁寧に行うようになり
歯に段差や穴や凹みが多少出来ていても
器用に汚れが溜まらないように歯ブラシの毛先を当てられるようになった優良な患者さんであった場合、
汚れが溜まらない部分の歯面は虫歯菌の繁殖の場となっていないために
経過観察で終わることがあるからです。
また原因が細菌由来ではないのかもしれない単純な酸触の場合(虫歯と総称されている場合がある)でも
原因となる酸の滞留がなくなり歯面が硬化してきている傾向が認められれば再石灰化の可能性ありで
経過観察にして治療介入しない場合があります。
ずっと通院している歯科医院があればそこの歯科医院では
歯磨きの様子や歯質の変化を定期的に確認出来ていますから
このままうまく管理ができるならば治療はしなくてよいですよで終わってしまう場合があります。
別の選択としては、
やっぱり穴や凹みが出来ていてそもそもそんな状態になってしまうような管理が行き届かない部位であれば
さっさとエナメル質虫歯のうちに平滑に穴埋めしておいてもらったほうが
後々まで気兼ねなく安心できるという理由から
ラポール(歯科医院と患者さんとの信頼関係の構築)が出来上がっていない歯科医院での場合
危ない芽はまず潰しておき定期的な管理に入るほうがよいので即治療しましょうと勧められる場合があります。
エナメル質虫歯は、例えれば道路にできたアスファルトの穴のようなイメージですから
穴はいずれ大きく進行していくし劣化してきている脆くなっている歯質はエナメル質虫歯のうちにさっさと穴埋めしてもらって
平滑面にしておいてもらったほうがありがたいと考える人のほうが多いです。
しかし、時には充填物の接着強度を高めるために新鮮面を出すために「歯を一層削って」という説明に
恐怖を感じられる過剰に神経質な方もおられますから
この段階では患者さんの希望が優先されることが多いです。
一般的には
脱灰しやすい部位(歯面ガサガサで荒れ果てていて細菌が住み着きやすい場)であることは
間違いないので神経質に歯磨きし続ける気の遠さを選択するより
穴埋めておくほうが安心でしょう。
穴が開いたり凹みが生じると虫歯は基本進みます。
台所やふろ場の掃除を真面目にしたことがあれば想像しやすいでしょう。
凹んでいるところには汚れが溜まり日常の何気ない掃除では落とせなくなりますからね。
エナメル質虫歯を見逃してしまうと
次は象牙質まで虫歯が進んで掃除ではどうしようもなくなってきます。
象牙質の構造は細くて長いチューブの集合体のような構造です。
エナメル質のように緻密な構造物ではありませんから細菌入り放題になっていきます。
(上図青は細菌ではありませんがイメージ図として貼っています)
実際には健康な方は象牙細管という管の中には歯髄側の象牙前質といわれるところにある
象牙芽細胞から突起状の細胞質が伸びている(トームス突起)ことがわかっていますから
そうそう容易くお口の中の細菌が出入りしている入り放題というほどの状態ではないはずです。
また歯髄側からは6mHg~20mHgの水圧がかかっていますから
弱った身体や栄養障害による浸透圧の変化の有無がバリアーの強度を左右しているのではないかと思います。
甘いものを好んで食べているとバリヤーは弱くなるように思いますし、
細菌の増殖も盛んになるでしょう。
急進性虫歯にならないように食生活には気をつけていただければと思います。
口腔病理学的にはトームス突起は割と簡単に消失してしまう場合があることが示されています。
無くなった場合歯髄側から管内に好中球や好酸球が遊走してきていたり
時には赤血球も遊走してくるようです。
外部刺激へ応答しているのでしょう。
歯のバリアー(石灰化)が弱まるとエナメル小柱間隙が広がることもわかっており
外部刺激は象牙質に到達していて
更に象牙細管の障害を引き起こし
歯髄に軽度の炎症を誘発することもあるようです。
知覚過敏とかホワイトニングの際の歯の痛みは歯のバリアーの脆弱な場合に起こるでしょう。
エナメル質では小さな凹みとしてしか認識されていない虫歯でも
一旦象牙質に至れば内部で大きな病変になって細菌が大繁殖して
虫歯がどんどん進行しています。
こうなったら歯髄処置が必要になってきて
治療がとても大変になってしまいます。
深くなってきた虫歯(C2)も段階がありますから
早期発見早期治療ができれば歯髄を残すことが可能になります。
歯の歯髄を取り除くと
歯は数年後に破折して抜歯が近づくことになります。
定期健診をずっと継続していても
抜歯になる理由の第一位は絶対的に歯根破折です。
歯を失う原因は結局は歯根の破折です。
定期的な検診を受けていない人は歯周病で歯がグラグラしてしまい抜歯になることも多いですけどね。
歯根破折する歯のほとんどは失活歯ですから
歯髄処置が必要になるまで虫歯を放置しておくと
結局は
歯を失う事に繋がっていくのです。
それではどの程度の深さの象牙質虫歯まで歯髄を残せるのか?
ですが、
象牙質の3/4に達していない虫歯までとされています。
それ以上進行している虫歯の歯髄保存治療は博打バクチになってきます。
誰が何を使って治療しても100%歯髄炎に進行する可能性0には なりません。
一時的に虫歯の進行を止めることができても
最終的に痛みが出て歯髄を取る必要が生じることがしばしばあるようになり
その確率も時期も予測できなくなります。
大抵の場合、歯髄炎の症状はジワジワ生じても痛みや不快症状を感じるため
患者さんから大いに恨まれることになります。
それでとりあえず即抜髄と決めて治療を行う歯科医院が結構多いのです。
結局歯を抜くことになる主因は歯根破折ですから
歯根破折の原因になる歯髄除去、抜髄を回避して
少しでも延命してあげたいと
多くの歯科医は実際には願っているのですが、
患者さんから
後に治療したはずの歯が痛みはじめて
先生が虫歯を取り残したんじゃないか?とか、
先生の治療がヤブだったんじゃないのか?と
疑われたり恨まれるのも嫌だなあ~という事から
抜髄してしまうあるいは断髄する歯科医も多くいます。
どういう虫歯が
抜髄までしないといけないのか?
歯髄温存ができるのはどこまでの虫歯か?
歯冠部歯髄温存は駄目でも根部歯髄を残せるのか?
何を根拠に診断して治療術式を決めているのか?
その説明にはA4版に160ページ以上の説明が必要になります。
詳しいことは以下の本がとても参考になると思いますから
(歯チャンネルの井野先生お勧めの本)
気になった方、歯医者の治療に不信感を抱いた方は
購入してみてください。
きっと歯医者ってこんな事を考えながら
自分が作ってしまった虫歯を治す為に色々頑張ってくれていたんだなぁ~と
霞が晴れるではないかと思いますよ。
治る歯髄 治らない歯髄
Amazon(アマゾン)
12,375〜31,420円
別のショップのリンクを追加・編集
12,000円の安い本で
わかりやすくカラー写真がたくさん載っていますし、
論文の引用もあります。
これでもまだ少ないくらいです。
病理学的な日本論文からわかっていることなどももっともっとあります。
残念ながら深い虫歯治療を頑張ってもらったにも関わらず、
歯髄が残せず根管治療が必要になった人には
この本がお勧めです。
写真とエビデンスで歯種別に学ぶ! 歯内療法に生かす根管解剖
Amazon(アマゾン)
15,400〜44,660円
別のショップのリンクを追加・編集
14,000円の歯科にしては安い本で更にかなり充実した内容です。
一般の方がまず見ることがない歯根のカラー写真がたくさん載っています。
細菌感染はどこから生じるのか?
身体の中からってことは滅多にないですから
ほとんどのケースがお口の中、
あなたのお口の中に住む細菌が
固くてとても頑丈なはずのエナメル質・象牙質の厚い厚いバリアーを
超長い年月かけて侵食して
歯の内部にどんどんどんどん進行していき
最終的に歯髄に進み
更に歯髄は細菌と闘おうと各種免疫系を駆使して戦ったのですが
(この時が痛いんですよ)
歯冠部歯髄から下に下にと どんどんダメになっていって
最終的に歯髄が死んでしまう・・・
でもね。
歯根は歯並びが悪い人や顎が狭い人の場合圧平されたり曲がったりしつつ
小学生頃に作られますから(奥のほうの歯は大人になるまでに)
その内部の根管も更に複雑になってますからね。
それを綺麗に清掃して生涯問題を起こすことなく機能させ続ける状態にするには
歯科医の技術力がとても必要なんですよね。
素直な根管ならどの歯科医がやっても治療しやすいんですよ。
貴方の歯根が全然素直じゃないから
誰にやってもらっても難しくて痛みが続くんですよ。
歯内療法の専門医がやっても難しいものは難しいのです。
元はといえば
虫歯になったあなたが悪いんですよ。と、
医療者は貴方を責めたりはしませんけど
病気になる人はたいていみんな元は自分のせい。
歯科医はできることを淡々とすることしかできないのね。
ってことがなんとなく理解してもらえる秀逸の2冊です。
何故、深くなった虫歯の治療は難しいのか?
歯医者がヤブなのか?
そうじゃないのです。(ヤブな歯医者もいるでしょうがね)
元々、かなり難しい治療は
誰がやっても難しいのです。
とりえず、エナメル質虫歯のうちに治しましょうよ!
経過観察を選択されたなら気を抜かずずっと継続管理してもらうために
歯科をずっと受診してください!
あっちに浮気、そっちに浮気は禁物です。
(ドクターショッピングはダメですね)
そんなのでは虫歯の進行度合いは比較診断できませんよ。
経過観察はかかりつけ歯科医院1軒でしてもらいましょう。
歯面は毎日のお食事の摂り方だったり
歯面のお手入れの具合で数カ月単位で変化してますから
転院先では正しく判断できませんからね。
久しぶりに行った初めての歯科医院では
今のあなたの歯面が荒れていたり弱いことくらいしかわかりません。
虫歯とは全く縁がない人は
現代社会にたくさんいます。
貴方のお口の中に
問題があるかどうかは
毎日毎日たくさんの人のお口の中を念入りに診続けている歯科医と歯科衛生士によって
膨大な記憶とデータと比較されながらチェックされます。
問題がありますよと指摘されたならばラッキーなんですよね。
早期発見、早期治療は効果的です。
早期発見、経過観察は1軒のかかりつけ歯科医院でがお約束です。
虫歯が進行して嫌な思いをしないためには
専門家の指摘に真摯に耳を傾ける素直さ。
こちらも必要なのではないでしょうか?
日頃の歯科治療への理解を深める一助になれば嬉しいです。
それでは。バイバイ