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『国東半島』Vol.1
「お父さん、盆に新居さん夫妻とクルージングに行くんでしょう?」
「それが、新居さん達は予定があって行かないらしいよ」
「そう、じゃぁ我々だけで行きますか?」
「何処へ行きたい?」どこへ行きたいと聞かれてもヨットで2~3泊と
なると行き先は限られている。
「佐田岬」と言いかけて慌てて口を押さえた。
目的地を目の前にして引き返した無念さと辛い船酔いが蘇ったからだ。
8月13~15日の天気予報は3日間とも「晴れ」である。
悪天候にはなりそうも無い。
夫にはクルージングという大きな楽しみがあるのだが
私にとって船酔いは拷問に等しい。
それでも私が夫と共にヨットに乗るには3つの理由がある。
先ず初めに目的地を目指す船旅は、目標を持った
人生そのものようで達成感が得られる。
次に 自称グルメの私にとって旅先で
美味しい海の幸を味わえるのも魅力的。
3つ目の理由としてその土地の人や歴史、
文化にロマンを感じる為である。
「そうだ!お父さん、国東半島にしようよ!」
私の頭の中を関鯖、関鯵、城下カレイが泳ぎだした。
夫も経験のある航路ということで目的地は国東半島に決定!
友人の江原由美子女史が「夫と私も連れて行って!」
ご主人の江原弘一氏は建築会社役員であるが趣味は
料理をつくること。
その腕前は会席料理まで作るほど食材から
包丁サバキにもこだわっていた。
銀行にお勤めの由美子さんは結婚以来ずっと弘一さんの
手料理に舌鼓を打ち、一人娘の弁当も幼稚園から
高校迄ずっと夫が作り続けたそうだ。
2005年8月13日
4:00 由美子女史と弘一氏はキャビンで歓迎の
シャンパンを見た瞬間から「何でもお手伝いするから指示してね」と
テンションが上がっていた。
二組のカップルを乗せたスペルバウンドは、
江原夫妻の希望に満ち溢れた気分と共に目的地を
目指してまだ夜の明けやらぬ母港を滑り出した。
8:30 釣り船で混雑する大畠の瀬戸を通過。
時速7ノット、風力10~15ノットで快走。
オートパイロットが「ジィーッジッジィー」とリズムを刻む。
波も穏やかで風も汗ばむ肌には心地良い。
船長である夫に
「船は我々に任せて少し仮眠をしたらどう?」と勧めた。
「じゃぁ、ちょっと寝ようかね」
それから1時間程してヨットが航跡通り
航行していないことに気付いた。
慌てた私と江原氏はオートパイロットを右に
+10、左に-10と操作して軌道修正を試みたが、
どうも迷走しているようで自信が持てない。
「これはイカン!船長を起こそう」
夫は何ごとかとスットンで来て速やかに対処したが
夫の目は(オチオチ寝てもいられない)と無言で語っていた。
15:00 その後は順調に進み予定より1時間早く大分県の
国東半島にある町営マリーナの
マリンピア武蔵に着岸することが出来た。
出迎えてくれた若い女性スタッフの日焼けした顔から
こぼれる笑顔が眩しかった。
空を見上げると隣の大分空港から飛び立った飛行機の跡を
追うように白いラインがくっきりと浮かび上がっていた。
カウンターで係留手続きを済ませ15日の早朝に
出航するので係留費2泊3日で7980円を前払いした。
マリーナでホッとする間も無く予約してあった
宿泊先の望海苑へとタクシーで向かった。
望海苑は、国民年金保養センターなので
国民年金加入者であれば宿泊料金が1割安く泊まれる。
年金の不払いが多い為か
「年金は、あなたをサポートします!」
「明日のあなたを考えて」
「年金はあなたが主人公です」
といったポスターが目立つ。
部屋に入ると、たった今航海してきた「海」が
目の前に飛び込んできた。
伊予灘に面し、豊後水道、周防灘に囲まれた
瀬戸内海は白波一つ立たず穏やかだった
温泉好きの私は早速、誰もいない大浴場で
海を見ながら疲れきった身体をかけ流しの湯に時を
忘れてゆったりと浸った。
不思議なことに風呂に入ると身体の揺れがピタッと止まった。
続く
船田 和江
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