
『国東半島』Vol.2
8月14日
9:00 ホテルをチェックアウトした我々は、霊場巡りをする為レンタカーを借りる事にした。
大分空港前にはトヨタ、日産、マツダ、ホンダと各レンタカー会社が
軒を連ねている。
「広島から来たのだからマツダ車でしょう」と
何故か郷土愛が湧き上がりマツダ社の窓口に行くが、
あいにく適当な車が無い。隣のトヨタ社でカーナビ付きのカローラを借りた。
土地勘の無いところでは、カーナビは必需品である。
レンタル料は12時間で7200円+ガソリン代(営業時間20:00迄)である。
六郷満山霊場巡り
国東半島には、宇佐神宮と六郷満山33の霊場がある。
六郷とは6つの里という意味で昔の国東半島を構成していた地名である。
満山とは、寺院の集合体を表している。
中心的な神社として宇佐神宮があるが国東半島は神社が渾然一体となった霊地である。
夫は3回目、私は2回目の霊場巡りであるが、なかなか33箇所の霊場を
制覇するのは難しい。
江原夫妻は初めてなので両子寺(ふたごじ)、富貴寺(ふきでら)、
熊野磨崖仏(まがいぶつ)の3箇所を巡ることにした。
両子寺は、国東半島のほぼ真中に位置する。
平安から鎌倉にかけて六郷満山修行道場本寺として栄えた。
厄除け、交通安全、安産祈願などの参詣者が全国から訪れる。
私も前回訪れた時、家族全員のお守り袋を土産に買った。
富貴寺に着くと、左右の大きな仁王像が出迎えてくれた。
江原女史が「日本の仁王像の70%がこの国東半島にあるそうよ」と言う。
そう言われてみれば何でもない道路にも仁王像や石灯篭が
立っていたなぁと思い出す。
富貴寺は満山を統括した西叡山高山寺の末寺の一つ天台宗]に属す。
国宝富貴寺大堂は、平安後期の建立て総素木(しらき)(榧(かや))造りである。
実に簡素な形であるが優美な屋根の線に安定を感じる。
阿弥陀如来坐像は重要文化財として保護されているのだが
出口側に展示されている一つのガラスケースを覗くと展示物が無い。
ふとどき者によって盗まれたと書いてある。
世の中には罰当たりが居るものだと心の中で思った。
熊野磨崖仏は、国指定史跡・重要文化財に指定されている。
「鬼が積みし石段を登らば、現れむ岩に刻まれし大いなる仏よ」
鬼が一夜で築いたと伝えられる自然石の石段は杖無しではとても登れない。
チケット売り場前にある杖を意地を張らずに借りたほうが良い。
石段往復所要時間は1時間ほどかかる。
我々夫婦は2回もチャレンジする勇気が無いので
江原夫妻とは別行動することにした。
国道10号線を目指し車を10分程走らせると「風の郷」と
書かれた幟がはためいていた。
一見、道の駅かと思ったが八角形の建物は食事と温泉付きの宿泊施設であった。
かご盛りの昼定食(1,500円)を頼むと入浴チケット(400円)が付いてくる。
温泉にのんびり浸かってまたまた癒される。
霊場巡りと温泉を十分楽しんだ我々は、午後8時にはレンタカーを
返さねばならないのが気になりだした。
それまでには夕食を済ませたい。だが、
飲食店は盆休みで何処も休業中である。
結局マリーナ近くの「いこいの村国東」のレストランに落ち着いた。
3,000円の懐石料理を注文する。
予約無しなので順番を待つこと1時間余り、
ようやく席に着き生ビールで「乾杯!」抹茶で化粧をしたゴマ豆腐が可愛らしい。
出て来た料理は11品。
「熱いものは熱く冷たいものは冷たく」絶妙なタイミングで出される。
中でも海草を練りこんだ素麺は「まさに技あり!!」
弘一氏も「この値段で、これだけの料理はなかなかできんよ!」と
料理人の熱いメッセージを受け止めていた。
大満足の我々は、大分空港前のレンタカー会社に車を返却し、
徒歩で10分程のマリーナに戻った。
想いは宇宙へ
空気が澄んでいるのか満天の星がキラキラと美しい。
視力2.0の江原女史が
「見て見て!天の川かしら?ちっちゃい無数の星が見えるよ!」
「えっ!どこどこ?」老眼の目に鞭打ち探してみるが
大体の星しか私には見えない。
(きっと江原さんはアフリカで生れたに違いない)と思って探すのを諦めた。
子供の頃の私は、月ではウサギが餅を搗いていると本気で信じていた。
月を見ながら懐かしい子供の頃の自分と対面していた。
2~3日前 TVニュースでディスカバリーが無事帰還したと
報じていたが私は、そのとき720日以上も国際宇宙ステーションで
働くロシア人の事を初めて知った。
彼には、まだ2ヶ月以上も任務があるそうだ。
きっと今も宇宙から地球を眺め「帰りたい」と思っているに違いない。
それとも孤独と戦えるほど宇宙には魅力があるのだろうか?
私も一度はこの目で自分の生まれた星を見てみたい。
4人は星に抱かれながらデッキで深い眠りに落ちた。
8月15日
7:00 心配した風も無く波も穏やかでスムーズに出航できた。
昼近くになると、ポツリポツリと雨が降り出した。
イヤ~な予感がする。
真っ黒な雲が辺り一面を覆い尽し、激しい雨が合羽も着ていない私を
容赦なく打ち付ける。
ヨットは舳先から真っ逆さまにドーン!ドドーン!と
音を立てながら落ちていく。
船酔いの恐怖と寒さで雨に濡れた身体がブルブル震えだした。
「お父さん!もう駄目だ。気持ち悪いよぉ~」やっとの思いで
キャビンの階段を下りると江原夫妻が昼食の準備をしているではないか!
弘一氏はスパゲティを湯がこうと熱湯の前に立ち、
女史はゆで卵の殻を平然と剥いている。
この2人はきっと宇宙でも暮らせるだろう。
私は濡れた服を脱ぐのもソコソコにビニール袋に顔を突っ込んだ。
13:30 大畠の瀬戸を通過。時速6ノット、風力25ノット、
最大瞬間風速30ノット。
その時、屋代島を目掛けて稲妻が走り光と同時に爆音が轟いた。
「うわ~っ!雷が落ちた!!お父さん!次の雷がヨットに落ちたらどうしよう・…」
「大丈夫だよ、落ちはせん」
私は夫にしがみつき六郷満山の神仏に心から手を合わせた。
16:00 阿多田島付近になると風も波もすっかり穏やかになっていた。
17:30 スペルバウンドは目的を果したと言う達成感に満たされ廿日市港に帰港した。
航海とは真に人生なり。
人生は順風満帆とばかりには行かない。
大自然を前にして人間はなんと小さな存在なのか。
「人間は生かされている」国東半島の神仏に改めて感謝した。
船田 和江