年度末や月末、

刑務所では刑期を終えて出所していく受刑者たちがいる。











最後の診察室で言葉を交わす。




外に出てからも持病の治療を続けるように、
医師の診察に通うように、と。



外に出た後は私はもう会うことはなく
治療に関わることもできないので、

最後の機会に伝えるべき話をしておく。





覚せい剤、麻薬の罪ならば
長い刑期でせっかくクリーンになった心身を覚えていてほしい。






外に出たならばいとも簡単に、再び快楽を手に入れられるだろう。


でもそこで手に入る快楽は、本物ではないんだ。
ただの偽物なんだ。


偽物の快楽なんかより、本物の暮らしで得た快楽のほうが
何倍も幸せだ。







そんな会話をしたとて
自由になれば、おそらく私の話などすぐに忘れてしまうだろう。

そんなにたやすく人間は変わらない、変えられない。





しかし、長い人生のいつかの瞬間
ふと我の日々に嫌気が差す時があったら、

できれば私の話を思い出してほしい。






偽物にすがるな。
そんな幸せは
幸せとは呼ばない。