奇跡の再会の話をしましょう。
あれは去年の春のこと。
311の震災直後、
近所のペットショップのオーナーが福島から一匹のトイプードルを引き取ってきたんだ。
名前はりょうちゃん。
りょうちゃんはとても痩せていて、脚なんか折れそうに細くて、
毛並みもボソボソに抜け落ちて、
すごくすごく弱っていた。
よほど怖い思いをしたのか、
外に出すと立ちすくんで、ほんの1メートルも歩く事ができなかったんだよ。
あたしはそんなりょうちゃんが気になって、しょっちゅうペットショップを覗いては声をかけてた。
もちろん、全然なついてはくれなかったけどね。
しばらくして、突然ペットショップが閉店した。
オーナーが病気で倒れたと風の噂で聞いたのは、ずいぶんと時間が経ってからだった。
そうしてあたしはりょうちゃんと会えなくなった。
何ヶ月も過ぎた今日、
近くの神社のお祭りの日。
青いはっぴを着た二匹のトイプードルを見かけた。
はっぴがとても似合ってたので、思わず
「かわいいですねぇ」
と声をかけた。
すると飼い主の女の人はにこにこしながらこう言った。
「小さいほうはハナちゃん、大きいのがりょうちゃん。りょうちゃんは福島から保護されてきたんです」
と。
そう、その元気でかわいい顔をした青いはっぴのよく似合う男の子のトイプードルは、
あの時のりょうちゃんだった。
りょうちゃんは、去年とは別の犬としか思えないほど、大きくなって元気に歩き回っていた。
「でもやっぱり警戒心が強いのか、あんまり知らない人には寄っていかないんですよ」
飼い主さんはそう言って笑った。
あたしはしゃがみこんで、りょうちゃんの前に顔を差し出してみた。
そうしたら、りょうちゃんはそぉっとそぉっと近づいて、あたしの目や鼻に自分の鼻先をくっつけてきた。
あぁ、記憶のどこかであたしの匂いを覚えていてくれたのかな。
それからしばらくの間、あたしはりょうちゃんのおでこや顎の下を撫でた。
丸くキラキラと光る目には、もう恐怖や不安の色は感じられない。
そうか、りょうちゃん。
いいところにもらわれたんだね。
飼い主さんは、きっとすごく優しいんだろうね。
良かった。
もう怖いことなんか、忘れていいよ。
もういっぱい甘えていいよ。
わがまま言ったって、いいんだよ。
良かった。
りょうちゃん。
また会えて、本当に嬉しかったよ。