経営者団体からの「最低賃金制度に関する陳情」を考える | 地方政治の未来を創る 秦野市議会議員  古木勝久

経営者団体からの「最低賃金制度に関する陳情」を考える

傍聴
こんにちは、秦野市議会も中盤から終盤へ。昨日は最低賃金制の陳情に関する環境都市常任委員会の審査を傍聴しました。


経営者団体から「最低賃金制に関する陳情」は、これまでも何度かありました。


通常、労働組合等から出される「最低賃金制度」に関する陳情はありますが、他市においても経営者団体からの「陳情」は珍しいのではないでしょうか。

 

このような陳情があるのかどうかインターネットで検索しました。見落としがあるかもしれませんが確認できません。

 

どこか地方議会で事例がございましたらご一報ください。
 

請願権(陳情)は憲法で保障している国民の権利ですから尊重していきたいと思います。

 

陳情の説明者は秦野商工会議所会頭の佐野友保氏でした。

 

会頭自らが「陳情文書表」にある「陳情の要旨」とほぼ変わらない内容のお話をされるほどの熱の入れようでした。


陳情内容
要旨は添付のとおりです。

 

(1)莫大な内部留保がある大手企業ならいざ知らず中小企業・小規模事業者にとって人件費アップは極めて厳しい。現行維持を前提に審議してほしい (2)神奈川県内同一額の最低賃金制度には無理がある。現実的ではない。地域性などを考えるべきだ (3)最低賃金の決定については客観的なデータに基づいて検証すべきだ。

 

このような3項目でした。


『賃金、価格、利潤』のバランスから考える
本来、モノの価格は適正な賃金で決定し、適正な利潤が生まれるという考え方があります。この考え方はどうあれ、適正な賃金が一定保障されなければならないと思います。

 

やがて巡りめぐって、利潤が生まれるという考え方は大方の人たちが認めていることで、異論がないのではないかと思います。

 

いくつかの疑問が浮かんできました。そもそも最低賃金制VS経営という対立構図はどうなんでしょうか。別の選択肢はなかったのでしょうか。非常に残念です。

 

日本は25年以上のデフレ不況です。爆買いされるほど「安い国」に成り下がったという識者もいます。しかも国際的に見ても適正な賃金ではないと言われています。

 

零細小規模事業者の置かれている現状も青息吐息、このことはコロナ禍やウクライナ侵攻以前からあったことです。

 

本来、この問題を「卵が先か、鶏が先か」ではなく、国の政策に対してモノ言うべき話ではないかと思います。

 

構図が違うような気がしました。


県内一律は問題」と「県境の話」
違和感のあるフレーズです。

 

「最低賃金を神奈川県内一律にするのは現実的でない。地域商圏によって区分されるべきだ」

 

これって当たり前の話ではないでしょうか。現実的な議論ではありません。現実の賃金の状況は一律であるはずがありません。ですよね。

 

自由主義経済ですから地域の商圏、市場に委ねられています。横浜市、中間点の海老名市、秦野市のアルバイト料でも同一ではありません。

 

「最賃制」が求めていることは、賃金の最低保証を法令で求めていることです。つまり神奈川県の場合は「1040円未満はダメよ」ということです。

 

同一労働同一賃金の最大の目的は地域性ではありません。正規、非正規であっても労働の価値は同じであるという観点から同一の賃金にすべきと定めたものです。

 

陳情は少し論点が混乱しているようにお見受けしました。

 

さらに陳情には「最賃制で言われている同一」に合理性がないことを主張されています。

 

事例として「公務員の地域手当や生活保護の受給額が地域(級地)により異なる」ことを上げていますが、これも誤解です。

 

公的な制度は級地を設定しなければ物価などの地域性に対応できません。

 

 

申し上げるまでもなく、民間の人件費などの実態は地域によって、暗黙の商圏の「級地」が存在しています。

 

このことは静岡県と神奈川県の最低賃金は建て前では異なります。しかし実態ではどうでしょうか。調べてみると県境には最低賃金制の区分に関係なく、商圏の”網”がかかっていることが分かります。

 

建て前としては、神奈川県山北町が1040円で、お隣の静岡県小山町が913円です。しかし実際には労働市場が優先して、このような”開き”や”境の垣根”などはありません。

 

ある意味、「グローバル化」しています。神奈川県湯河原町を静岡県熱海市も同様です。


いずれにしても、経営者団体側からの陳情には現実と建前が入り混じっているような印象があります。

 

陳情はやむにやまれぬ行為と行政のミスリード?!
何故、このような本市独自の「対立」(?)が生じてしまったのか。背景には何かあるような気がしてなりません。

 

本市は従来、独自の中小零細事業者への有効な手立てを打ち出していたのでしょうか。

 

今回の陳情は現実の裏返しです。やむにやまれず陳情書をご提出された経営者団体からのお気持ちは十分に伝わってきました。

 

しかし事態はコロナ禍、ウクライナに関係なく、過去25年以上も続いていたと思います。

 

行政として本来、やるべきことが導き出されていない裏返しではないでしょうか。
 

本市はこの陳情の願意を汲み取って、中小零細事業者の疲弊を受け止めていただき、具体のプランを打ち出していただきたいと思います。もう待ったなしです。