『社会教育の終焉』?! | 地方政治の未来を創る 秦野市議会議員  古木勝久

『社会教育の終焉』?!

松下圭一氏の時代とは?

『社会教育の終焉』を読みました。

法政大学名誉教授 政治学者 地方自治論

 

著書の概略を申し上げますと、行政が近代市民に「社会教育」などと、おこがましいということです。成熟した時代で、自立した市民を行政(お上)が「指導」、「教育」などということ自体がナンセンスだということらしいです。

 

 

「自立した市民像」を前提の中で、今、求められる行政運営とは何かという問いかけでしょうか。

 

 

市民の自立(律)性を前提とした、自治体独自の文化行政の確立が求められ、市民参加のもと文化振興・カルチャー戦略が必要だということです。

 

 

現代にあって社会教育という領域は、もはや不要、「終焉」したということらしいです。
 

しかし、松下氏がこの古典的名著を出されたのは1986年です。バブル絶頂期でした。「中流」という言葉が持てはやされ、総中流経済・一億総中流意識、ジャパン・アズ・ナンバーワンという言葉が流行った時代です。

 

駅中や駅周辺には民間のカルチャーセンターができ繁盛を極めた時代でしょうか? 教育委員会社会教育課主催の通年の講座・学級・教室などは閑古鳥が鳴いていたという話を聞きます。

 

 

著作を出されてから30年が過ぎました。

 

松下先生は今日の混迷と停滞を予期していたかどうかということです。仮に予期していたとしても、市民の存在を固定観念で見ているところに学者らしからぬ不可解さが見えます。かつての社会教育をイメージできる行政マンがどれくらいいるのか?ほとんど持続可能性すらないのではないかと推測します。

 

近代的市民であろうがなかろうが、”市民”は常に時代や社会変化に翻弄され、熟成し続ける保障はありません。持続可能ではありません。

確かにNPO法人や自立、成熟した市民は増えたかもしれません。しかし、これらの存在は未来にわたって永遠ではありません。

 

松下先生のような固定化した市民像でなく、今の時代の、年齢層のライフステージを見ていかなければなりません。

 

乳幼児・・・・虐待・ネグレクト・DV

少年期・・・・不登校・イジメ・非行問題行動

青年期・・・・居場所喪失・未就労・非正規・未婚率     

壮年期・・・・失業・うつ病・自殺問題(青年期~壮年期)

高齢期・・・・孤独死・孤老死、セルフネグレクト(支援拒否)

 

混迷の時代、今、ライフステージで何が起こっているか。

決して、一部の片隅で起きている問題ではありません。

多くの人が直面している問題です。

 

市内では、全労働人口に対して、非正規労働者は約50%強でしょうか。

市役所のこども家庭相談班に寄せられる、虐待やイジメ、不登校などの相談も公表では年間5000件(累計)を超えているといわれています。

 

市内の自治会・町内会の組織率の低下もきわっだって来ていると言われています。止めどない組織率の低下に対応して自治会加盟を呼びかけるポスターを作成しています。果たして有効な手立てになるかどうか、きわめて疑問です。

 

一方、公民館運営費の削減です。本市は、この10年間、1館が増設されたにも関わらず、1億円余の縮小予算になっています。その中で、社会教育主事や社会教育指導員の配置もなく、段々と公民館の貸館化が進んでいます。

 

さらに社会教育の学習の参画型のプログラム化ではなく、単発のイベントが行われる”場”が、公民館になっているようです。

 

松下先生が思い描いた時代の風景とは、明らかに変化しています。

 

第3回定例会の決算特別委員会で、古谷市長はある議員の質問に対して「地域づくりの大切さ、コミュニティ能力の醸成、地域社会で生きていく環境作りの行政の役割」の必要性を答弁していました。

 

いかに地域の仲間づくりや地域の疎遠や無縁を解消していくかが問われいるわけです。


かつて、公民館は社会教育の拠点として「学習計画・カリキュラム」がありました。多くの方々が、公民館を介して、仲間づくりや地域の輪を作り上げてきた歴史があったことも無視できません。

 

現状では、公民館の「地域の学校」としての役割や機能が、小中学校に移行されているようにも見えます。

 

学校の多忙化の原因にもなっている所以<ゆえん>はここにもあるかもしれません。

 

昔の話ですが、1974年、東京都教育委員会は社会教育法に基づいて「三多摩テーゼ」(*)を策定し、公民館の4つの役割、7つの原則を発表しました。テーゼ、決して古びていません。どれも現代的課題ばかりです。

 

今、このテーゼを参考に、行政と地域が、自ら公民館を介して協働の社会教育を再構築していくべきではないかと思います。

 

もちろん一方的な行政の「教え育てる」という上から目線でなく、行政と共に地域のあり方、地域の根源的テーマを考えていく場として、また社会や市民生活の変化に対応し得る、公民館を復権していくべきかと考えます。

 

まさに、地域力や市民力の醸成は、公民館を起点として、「社会教育の充実で、生涯学習を振興して」いくことだと思います。

 

*三多摩テーゼ

4つの役割 

(1)住民のたまり場

(2)住民の集団活動の拠点

(3)住民にとっての「私の大学」

(4)文化創造の広場

 

7つの原則

(1)自由と均等の原則

(2)無料の原則

(3)学習、文化機関としての独自性の原則

(4)職員必置の原則

(5)地域配置の原則

(6)豊かな施設整備の原則

(7)住民参加の原則