デパ地下のイートインでキレたあと
その後、ずっと予定が入ってて
息つく間もなく忙しかったから
イートインでのことについて振り返ることもなく
母とはいつも通りの会話をしていたけど
胸のあたりはなんだか苦い感じがずっと広がっていた
それは
それは…翌日の夕方のことだった
猫達の世話をしているとき
母にお願いした。
「猫たちの水入れ、全部集めたから洗っておいてくれる?」
「分かったー」
それから再び戻ると
母がこれから水入れを洗おうとしていた。
チラッと目をやると
流しの奥にまとめといたごはんのお皿が先に洗ってある
それ見た瞬間、
カーーーーッと足先から怒りが一気に沸き上がった
でも、グッと怒鳴りそうなのをこらえて
「ねーねーねー、水入れ洗ってって言ったよね?
なんで、水入れ先に洗わないの?」
「だって、邪魔だから」
カチン![]()
え?え?
えーこれで?でしょ、
そうなのよ、
これで、こんなんでスイッチが入んのよ
「邪魔とかじゃないでしょ、
よけてまとめて奥に寄せてあったでしょ
最初に洗ってほしいって言った水入れを
手前にまとめて置いてあったでしょー
なんでわざわざ奥の物から洗うのよっ
」
「いいじゃないー、目についちゃったんだから」
「はぁ?
それに、
水入れとごはんのお皿を一緒に洗わないでって
いつも言ってるでしょっ![]()
もし洗うときは水入れからって
何回も言ってるでしょっ![]()
ごはんのお皿は油分がついてるから
後にしてって言ってるのが分からないのっ
ねぇっ、私、そんなに難しいこと言ってるっ?」
「はいはい、分かりました。
次からは気を付けますよ」
ムキーーーーーッッ![]()
なんなのよ、私
今までだってこんなこと何回もあったじゃん
たいしたことじゃないって
やんわり言えてたじゃん
どうしちゃった?今日?
何をそんなに怒ってるの?
今日?
今日じゃねーよっ
昨日からずっとムカムカが残ってんだよっ
えぇーーーー!
そうだったんだ、私
…確かに胸のあたり苦~いなんかあるよねぇ
「お母さんは私の話、ちゃんと聞いてくれないっ」
「聞いてるわよー」
「聞いてないっ
何かにつけて私をないがしろにしてるっ
ずっと私…」
え?言うの?
言っちゃうの?
どうしたんだ、私、水入れの話じゃなかったのぉぉぉ![]()
「ずっと私、頑張ってきたのにぃ
お父さんが死んでから
ずっとお母さんを守るために
朝から晩まで働いて
借金も返して生活費も出して
税金も払ってお小遣いも出して
あなたがもう苦労しなくてすむようにって
うわぁぁぁぁぁん![]()
なんでお兄ちゃんの肩ばっかりもつんだよぉぉぉ
なんで私の味方してくれないんだよぉぉぉ
バカみたいっ
バカみたいっっ
バカみたいーーっっ
何回も何回もカードで自転車操業して
払えなくなって首が回らなくなるたんびに
私やお姉ちゃんが清算してやってんじゃないかっ
家に一千も入れないお兄ちゃんのことばっかかばって
何が長男だよっ
何が世帯主だよっ
長男だろーが年上だろーが
関係ねーんだよっっ
家長制度はもうとっくに終わってんだよっ
は?
なんで?
私がやんなかったら
お母さんがやるんでしょ
お父さんのときみたいに
あいつの借金も自分がなんとかしなきゃってさ
やっとお父さんがいなくなったんだから
もうお母さんに苦労させたくないからじゃん
うわぁぁぁぁぁん![]()
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なのに、私のことは一度もほめてくれないで
二言目にはお兄ちゃんのことばっか
なんなんだよーもうー
なんなんだよぉぉぉ
偉そうにふんぞり返って
助けてもらってもお礼も言えないようなやつに
どうして私がへーこらしなきゃならないんだよ
なんであいつの顔たてなきゃならねーんだよっ
もうやなんだよ
もうやなんだよっ
今まではお母さんのために
もめないように
怒らせないように
下手下手にしてきたけど
(あいつが結婚するって言ったときに)
お兄ちゃんの尻ぬぐいは
今後一切しないって決めたんだ
お兄ちゃんにもそう伝えたしっ
私は
私はできること全部やってきた
お母さんを守りたかったから
苦労させたくなかったから
あなたの言うことも可能な限りきいてきた
お父さんが死んでから
お母さん、一度もお金がなくて困ったことないでしょ
これ以上、私に何を望むのよっ
これ以上、私は何を我慢すればいいのよっ
私にだってできないことはあるんだよっ
やりたくないことはあるんだよっ
わーだいぶ言ちゃったなー
でも、これ以上はマジでやめよう
全部ぶちまけても責めるだけになる
もうすでに、責めてるかもしんないけど
「知らなかった…」
当たり前だろっ
あなたに知られないように
先回りしてたんだから
知ったら
あなたが自分でなんとかしなきゃって思うでしょっ
「ごめんね、
あなたにそんな苦労させてるとは知らなかったから…
ごめんね」
うわぁぁぁぁぁん![]()
謝ってほしいんじゃないよぉぉぉぉ
涙目の母をみて
いたたまれなくなり、逃亡
バタバタバタバタ…![]()
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泣いて逃げる私
謝ってほしいわけじゃない…
じゃあ、どうしてほしかったんだ?
あれ?
私、どうしてほしかったんだろう…
知ってもらいたかった? 違うな…
お礼を言ってほしかった? 違うな…
ほめてほしかった? ちょっと違うな…
頼ってほしかった? うーん…
分かってほしかった? ちょっとあるかもな
でも、実際話してみて
そうだったんだーって少しは分かってもらったけど
そこじゃない感じ
うーーーーん…
水入れがどーのなんてどーでも良かった
キッカケはきっとなんでも良かった
私の中に
ずっと抑えてきた何かがあるんだ
怖くて聞けない何かが
怖くて言えない何かが

