働く主婦“ふう”のしあわせ探し-SN3G0351_0001.JPG




五月になり、丸の内の通り沿いには早くも紫陽花が飾られている。


アジサイと書くより、紫陽花と和名で書くほうが好きである。最近のお花屋さんでは、和名よりも片仮名読みが好まれるそうだが、和名にはその花の名前の由来が伝わってくるし、声に出したときのなんともいえない響きが風情があって、昔の日本人の美意識の高さが感じられる。


去年は友人と紫陽花の季節に鎌倉を散策した。以前から一度行ってみたかった小説に登場するビーフシチューの店を訪ねたが、あいにくオープン時間が終了していて、またいつか行きたいと話していたのを思い出した。


鎌倉の、野生の中にひっそりと咲く紫陽花と、最先端のブティックが立ち並ぶスタイリッシュな丸の内に、ファッションアイテムの一つとして溶け込んでいる紫陽花。どちらもまったく対照的な美しさを放っている。





この4月から新しい職場にきて二週間が過ぎた。



今の会社に来て六年目。初めての異動で事務職から料理教室の現場に配属され、まるで転職と同じ毎日だ。


勤務時間もシフト制で、毎日定時で上がれていた今までとは違い、夜遅くなることも多く生活がガラリと変わった。



今日ようやく休み。昨日は初めて一人で最後まで通しでやったのだが、慣れないお金の扱いで計算が合わずに残業になってしまった。

以前いた部署でも経理をやっていたが、実際にお金を扱うのではなくパソコンの端末に数字を入力するだけで、じっくり落ち着いて集中できた。しかし、料理教室となるとそうはいかない。生徒さんが入れ替わり立ち替わり訪れ、次回のレッスンの予約の対応や授業の出欠確認、新しく入学する生徒さんの手続きなどなど、細かい作業に追われ、その合間にチケットや、教室で販売している料理器具のパイ皿やドーナツ型などを購入する人もいて、てんやわんやになる。



気づくと夜のレッスンが始まっていて、食事にいく時間を逃してしまった。



まだ気持ちと体が追いつかない。


あと一ヶ月もすれば、ずいぶんと楽になると思うのだが…。


三月も残すところわずかとなった。


早咲きの白い桜の花がちらほら咲き始めたのもつかの間、冬のような冷たい雨の日が続いている。



今週はじめ、念願の現場への異動を告げられた。転職早々、花嫁修行も兼ねて一年間通学したクッキングスクール。まさか、ここで働く日が来ようとは、六年前のあの頃想像もしていなかった。


正式な辞令はこれからで、部内の人だけにしか知らされていない。

内辞がでてから三日が経ち、ようやく気持ちの整理がついてきた。

初めは念願の接客に携わることができる喜びでいっぱいだったが、次第に長年お世話になった上司や、慣れ親しんだ仕事からの卒業を想うと、センチメンタルな気持ちになってもきた。


後輩を除いて、上司と二人のアラフォーの先輩とは、以前いた宣伝部からずっと一緒なので、もう六年目の付き合いになる。


最も苦手なうるさいアラフォーの先輩には、旦那さまのアドバイスどおり、内辞がでた次の日に、急なことで驚いています、いろいろお世話になりましたとだけ声をかけておいた。そのせいかはわからないが、意外なほど口うるさくなくなった。


もう一人のアラフォーの先輩は、長年の付き合いだし、急なことで驚いたわ。とか、寂しくなるわね。とか、何かしらあるかと思ったが、ただの一言も、まったくない。そればかりか、何やらものすごいご機嫌で、電話の声もルンルンで弾んでいる。パソコンのキーを打つ音だけがカタカタ響く静まり返ったいつものオフィスで、今日も一日先輩一人ハイテンションだった。


辞令が出るまでは緊張と不安とで落ち着かないのに、先輩のまるで他人事のような態度には、さすがにやりきれなさを感じた。寂しさも加わって、複雑な気持ちが入り交じり、どっと疲れてしまった。

悲しいけれど、最後に本当の人間性が見えてしまったのだから仕方ない。気持ちを切り替えて、上司への感謝の気持ちと、自分の仕事への誇りをきちんと形にして、気持ちよく引き継ぎをして卒業したいと思う。