幻の「シエラ・デ・コブレの幽霊」を見た2 | 心霊写真部 福谷修

心霊写真部 福谷修

原作・脚本のシリーズ最新作『心霊写真部 劇場版』がついに公開、Blu-ray&DVDリリースされました!ホラーを中心に監督、脚本、小説等をやってます福谷修のブログ。新作は初の実話怪談『恐怖のお持ち帰り~ホラー映画監督の心霊現場蒐集譚~』(TO文庫)。11/1発売!

おかげさまで「心霊写真部 壱限目」のレンタルも好調のようです!
限られた予算ながら、監督以下スタッフが必死にアイデアを練り、キャストも熱演に次ぐ熱演だっただけに、とにかく多くの人に見てほしい作品です。
「ホラーは苦手」「どうせ低予算でつまらない」と思っている貴方、だまされたと思ってレンタルして見てください。損はさせないと思います。
純粋なホラーと言うより、ホラー・サスペンス、ホラー・ミステリーと思いますので、より多くの人が楽しめるんじゃないかと思います。


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さて「シエラ・デ・コブレの幽霊」です。
「カナザワ映画祭」での無料公開も決定したそうで、本当に良かったです。
しかも日本語字幕付き!(←私が見たのは字幕無し!)
野外上映!(←わかってますねえ!知らない人のために言っておくと、昔は夏休みの夜に、学校の校庭なんかで、16mm映画の上映会なんかやっていたのです。今はやるのかな)

ホラーファンのみならず映画ファンはこの機会をお見逃しなく!

今更ながら、遅れに遅れていた感想の一部も書いておきます(前回はこちら)。たいしたことは書いていません。


まず断っておきたいのが、この作品は厳密には劇場用映画ではなく、アメリカで作られたテレビドラマのパイロット版ということ(制作年度は1965年、日本でのテレビ放映は1967年8月)。
実尺も約49分しかない(日本の日曜洋画劇場の枠でテレビ放映された時も短縮版「ミイラ再生」との二本立てだった)。

このパイロット版を買い、テレビで放映した日本やイギリス、カナダなどの数カ国の視聴者の間で「最も恐いホラー」として語り継がれてきた“伝説”は、「探偵ナイトスクープ」等で既報の通り。

ただ、伝説は伝説として、あくまで60年代当時の“幻のテレビドラマ”として向き合うのがベストだ。
“史上最も怖い封印ホラー映画”などと過剰に期待し身構えるのはオススメできない。

実際にスクリーンに映し出された「シエラ・デ・コブレの幽霊」のモノクロ映像は、想像以上に状態が良く、鮮明だった(保存がいいのか、ほとんど上映されていないのか、はわからないが、たぶん後者)。

冒頭、当時のホラーにありがちな夜間ではなく、昼間の俯瞰映像から入る辺り、監督・脚本を務めたジョゼフ・ステファーノの野心と意欲を感じさせる。

それと冒頭の海の撮り方は、妙に大林宣彦監督作品っぽくもあり、大林監督も本作のファンであることを考えると、監督も少なからず影響を受けているのだろうか。

で、何より感心したのは、音(SE)へのこだわり。
当時の水準から考えれば、「十分恐い」と思える音の演出だ。
これだけで、当時のテレビ作品の水準は優に超え、視聴者が相当びびったことは容易に察する(日本での放送は吹き替えなので同じSEとは限らないが、似たイメージであることは間違いない)。

私も実際にホラーを撮り、編集する立場からすれば、ホラーにおいて音が何よりも大事かということは痛いほどの身に染みている。

同時にこれは、規制が極めて厳しかった当時のテレビ界において、本格的なホラー(厳密にはホラー・ミステリー)を目指そうとしたステファーノの、ホラー表現に対する精一杯の抵抗と見てもいいだろう(ステファーノが脚本を手がけたヒッチコックの映画「サイコ」が、あのシャワー・シーンで社会的に物議を醸していた時期である。テレビはエロやグロはもちろんわずかな流血もほとんどNGだった)。

それにしても、60年代当時の水準から見てもかなり「やりすぎ」なぐらい、不快で不気味な音の使い方と思う。

本国アメリカでは試写の段階で、気分が悪くなる人が続出し、お蔵入りになってしまったという伝説が残るが、それが事実ならば、原因は映像や物語ではなく、この「音」にあるのではないかと思う。

そして、本編で、このこだわりの音が最大限に生かされたのが、「心霊現象」として登場する不気味な幽霊である。
マニアの皆さんの間では「にじみ出る幽霊」というらしい。

おそらく当時の子供たちがこれを見れば、不気味な効果音と巧みな視覚効果で間違いなく、トラウマになったはずだ。
リアルタイムでテレビで見た人は「シエラ・デ・コブレの幽霊」とはこの「にじみ出る幽霊」のイメージではないかと思う。

この視覚効果は、ステファーノが脚本や製作で参加した人気テレビシリーズ「アウター・リミッツ」の第一話(パイロット版)「宇宙人現る」で、電磁波を通じて地球に転送されてしまうヒューマノイド型エイリアンを彷彿させる。
電送されたエイリアンという設定のため、反転した映像を実刑に合成して、不気味な雰囲気を醸し出しているが、「シエラ・デ・コブレの幽霊」の印象はそれに近い。
ステファーノにしてみれば、「アウター・リミッツ」で強烈なインパクトを与えたエイリアンをモチーフにすることは容易に察しが付く(実際、本作には「アウター・リミッツ」のスタッフが参加している)。

ちなみにこの電送エイリアン、モニターから這うように登場する辺りが映画「リング」の貞子によく似ており、脚本家の高橋洋氏が「シエラ・デ・コブレの幽霊」を絶賛し、影響を受けたと語っているのを知ると、ここにも「アウター・リミッツ」と「シエラ・デ・コブレの幽霊」の密接な関係が見て取れる。

さて、肝心の内容だが、これはステファーノの気合いの入ったシナリオと、脚本家出身の監督らしい、手堅い演出が印象に残る。
個人的には、ホラー・ミステリー・ドラマとして極めて完成度が高いと思った。

視覚的にも、マット合成を導入したり、納骨堂や館の不気味な雰囲気など、凝った画面構成やライティングもあり、先に「にじみ出る幽霊」の視覚的なインパクトと合わせて、「アウター・リミッツ」で培ったノウハウが随所に生かされている。

今回のパイロット版はもともとは別の監督が決まっていたのが、急遽、本人が監督を務めることになった経緯もあり、初監督への意気込みと共に、この作品(シリーズ)にかける執念のようなものが非常に画面から伝わる。
純粋な心霊ホラーというより、当時流行っていた探偵物とのミックスで、「アウター・リミッツ」よりも多くの視聴者層を狙った作品とも言える。

もしもシリーズ化が実現していれば、後の「事件記者コルチャック」や「Xファィル」、「怪奇大作戦」などの“心霊探偵もの”の先駆けにして、そのスタンダードになっていたかもしれない(怒られるのを承知で言えば、「心霊写真部」もその流れなんです)。

つくづくお蔵入りが残念だが、ゆえに私たちは「幻の作品」として楽しむことが出来るのもまた事実。
この作品を巡る謎はまだまだあり(例えば菊池秀行先生が試写後に「自分が見たのとはラストが違う」とご指摘されていたり、オリジナルはカラー版という噂があったり←当時のドラマならありうる話)、興味は尽きない。

こんな作品を、当時にタイムスリップしたような野外上映で見られるなんて、なんて優雅で贅沢なことか。
日本もまだまだ捨てたもんじゃないと思ったりもします。



「にじみ出る幽霊」に影響を与えたと思われる第一話「宇宙人現る」を収録(ジャケットにもちらりと…)
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