2024年3月20日(水)

また無沙汰を重ねました。

だんだん脳の活動が鈍くなって、集中力が途切れて面倒になってしまう。書けない、と決めるとホッとする。ぼーっとしているのが一番楽。でもそれではいけないという気持ちもある。

そんな老いの日々です。

(なお、以下の記憶のための要約は長くなってしまいました。)

 

 

オスカー・ワイルド『サロメ』を読む。

読み終わったのはもう2ヶ月以上前ですが、頭の中がまとまらず延々日が過ぎていきました。とにかく書き始めます。

 

1891年、戯曲、文庫90頁。あまり長くない。

 

主な登場人物

 エロド・アンティパス  分邦ユダヤの王

 ヨカナーン       預言者

 エロディアス      エロドの妃

 サロメ         エロディアスの娘

 兵士たち、客人たち、奴隷たち、首斬役人

 

 王エロドは義兄の前王から王位を奪い、王妃をも奪った。

 そういう王と王妃に対して非難と不吉な呪いの言葉を投げ  

 かけてきた預言者ヨカナーンは捕らえられ、水槽に閉じ込

 められている。しかしエロドはヨカナーンを神の使いとし

 ての預言者として恐れており、殺すことは自らに災難が降

 りかかることになると信じている。

  

 ローマほかの客人を迎えた祝宴の場。サロメはエロドの眼

 差しを嫌って庭に出る。客人や兵士もいる中でヨカナーン

 の声が聞こえてくる。

 「誰だい、いまの声は?」

 「預言者でございます、王女様。」

 「ああ、あの預言者、王が恐れておいでの男だね?」

 「年寄りなのかい?」

 「いいえ、王女さま、まったくの若者で。」

 ヨカナーンの声

 「パレスチナの国よ、おのれを打ちし者の鞭折れたりとて

  よろこぶな。見よ、やがて蛇の卵より怪蛇バジリスクが

  孵り、それは育ての親鳥を貪り食うであろう。」

 「なんて不思議な声だろう!あたしはあの男と話がしてみ 

  たくなった。」

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 ヨカナーンが暗い水槽の奥から引き出される。

 その痩せた象牙の人形のような白い姿に興味を増してい

 く。近くで見たい、話がしてみたい、「お前の声は、あた

 しを酔わせる。」「ヨカナーン、あたしはお前の肌がほし

 くてたまらない。その肌の白いこと、一度も刈られたこと

 のない野に咲き誇る百合のよう。山に降り敷いた雪のよ

 う。ユダヤの山々に降り積もり、やがてその谷間におりて  

 くる雪のよう。・・・お前の肌ほど白いものはどこにもあ

 りはしない。さあ、お前の肌に触らせておくれ!」

 

 「あたしはお前の口に口づけするよ、ヨカナーン。」

 

 「退がれ!バビロンの娘!女こそ、この世に悪をもたらす

 もの。話しかけてはならぬ。聴きたくない。おれが耳をか

 たむけるのは、ただ神の御声のみだ。」

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 王エロドはサロメの踊りを所望する。しかしサロメは反発

 を露わにして、その言葉に従おうとしない。

 

 「今宵のおれは気がめいって仕方がない。サロメ、頼む。 

 踊ってくれたら、なんなりとほしいものをつかわそう。

 たとえこの国の半ばをと言われようとも。」

 「本当に、ほしいものはなんでもと、王さま?」

 

 奴隷たちが香料と七つのヴェイルを運んで来て、サロメの

 サンダルを脱がせる。--- 七つのヴェイルの踊りを踊る。

 

 「私のほしいものとは、なにとぞお命じくださいますよ

 う、今すぐここへ、銀の大皿にのせて・・・」

 「---それはなんだな、銀の皿にのせてくれとお前が言うの

 は、おゝ、おれの美しいサロメ、ユダヤのどの娘より美し

 いお前がほしいというのは、一体なんなのだ?」

 「(立ち上がり)ヨカナーンの首を。」

 「ならぬ、それはならぬ。」

 

 王に誓いを求め続けるサロメ、あれこれの宝物を挙げて何

 でも、国土の半分でも与えるというエロド。

 サロメを説得できず酒を飲み酔っているときに、エロディ 

 アスが王の指から死の指輪を抜き取り、首斬役人に持って

 行かせる。

 大きな腕、銀の楯の上にヨカナーンの首をのせた首斬役人

 の黒い腕が、水槽からせりあがる。

 サロメ、その首を掴む。

 (独白)「---あゝ、お前は口づけをさせてくれなかった

 ね、ヨカナーン。さあ!今こそ、その口づけを。---

 あゝ!ヨカナーン、ヨカナーン、お前ひとりなのだよ、あ

 たしが恋した男は。ほかの男など、みんなあたしには厭わ

 しい。お前だけはきれいだった。---お前はどうしてあたし

 を見なかったのだい、ヨカナーン?---神を見ようとする者

 の目隠しで、その眼を覆うてしまったのだ。たしかに、お

 前は見た、お前の神を。でも、あたしを、このあたしを、

 お前はとうとう見てはくれなかったのだね。一目でいい、

 あたしを見てくれさえしたら、きっといとしう思ってくれ

 たろうに。あたしはお前を見てしまったのだよ、ヨカナー

 ン。そうして、あたしはお前を恋してしまったのだ。---

 恋だけを、人は一途に想うておればよいものを。---」

 「ヨカナーン、お前の口に口づけしたよ。お前の唇はにが

 い味がする。血の味なのかい、これは? いいえ、そうで

 はなくて、たぶん恋の味なのだよ。恋はにがい味がすると

 か---でも、それがどうしたというのだい?あたしはとうと

 うお前の口に口づけしたよ、ヨカナーン。」

 

 一条の月の光がサロメを照らしだす。

 

 エロド「(振り返ってサロメを見)殺せ、あの女を!」

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この『サロメ』は新約聖書に基づいているという。

ちょっと聖書とはそぐわない感じがあるように思いますが、翻訳者福田恆存によると、これは運命悲劇だと言う。

エロド王は、イエスの誕生を恐れてベツレヘムの幼児虐殺を行ったヘロデの子であり、ヨカナーンは洗礼者ヨハネのことである。つまり悪の権化の末裔に起こった悲劇だというわけである。

でも、義父エロデに対する反発ゆえに歪められたとは言え、サロメにとっては恋だった。捕らえられ虐待を受けながらも王と王妃に対して恐れることなく、神の名において非難の言葉を投げかけ続けたヨカナーンへの恋。

 

日本では松井須磨子が演じたそうだが、サロメ役を演ずることを希望した女優は多くいたはずです。

(以上)