桜が咲いた。
頬をなぶる夜風にも、穏やかな暖かさを感じる。
30年近く前にもなるが、関小田雄二の言葉だ。
(、、、桜の木の下には死骸が埋まっているから、桜はその死骸を慰め話かける為に、下を向いて咲いているのだそうですね、知ってましたか?)
と雄二は、いつに無く神妙な顔で、俺に話しかけてきたものだった。
その時に、俺がどのような返事をしたか覚えちゃいねえが、俺達が組織を離れ、日本で初めての復讐代行業、現代版仕置き人と名乗っている時の事だ。
大組織の呪縛から解放され、調子に乗って警戒心が散漫になっていた頃の春の事だ。
それから数ヶ月後に俺は逮捕され、10年の懲役を言い渡された。
見せしめの為の刑だそうだ。
獄中で俺は、雄二が大阪のグリコの看板の上からジャンプして、死んだと噂で耳にした。
桜を見る度に雄二を思い出す。
あの雄二が自殺する訳などねぇ。殺されたのだと俺は思っている。
雄二を思いだすと、黒田や大垣や小金沢を思いだす。
人は人との出逢いに依って、将来が左右される。
だから裏社会では珍しい、来る者は拒まず、去る者は追わずでやってきた。
今俺は俺には過ぎたスタッフに恵まれ、二代目候補者も出来たが、スタッフ一人一人の将来を考えると気持ちが滅入る。
俺自身、自分の死も刑務所入りも覚悟のうえだが、スタッフの
将来はやはり気になる。
この道を選らんだからには、非業の死も刑務所も覚悟の上だろうが、やはり気にせぬ訳にはいかない。
ハラハラと優しい風情で散りはじめた、櫻の花ビラをみていると、柄にもなく、死んで逝った者、何者かに殺されただろう者に、詫びたくなる。
桜の咲く頃は、社会の底辺で蠢くゴキブリが、人の心を取り戻す、束の間の時間なのだろう。
満開の桜とともに、見知らぬ土地で小雨の中、ボオッと佇んでいて、ハッと気付いて歩き出す。
隙だらけだ。
老いた獣は、桜の咲く頃は一年中で一番苦手だ。
逆に思い出せ無い事も有る。配下のメンバーの1人から、
(ヤフーに何か書かれてますよ。)
と言われて、
(まぁ、俺は悪党には愛されてはいねぇからな❗️)
と言ってスマホを見たが、なかなか思い出せない。
俺の個人情報を全て載せ、なんと膨大な資金を俺に横領されたと載せている。
俺は金には全く縁のねぇ、その日暮らしの復讐代行業者だ。
顔も、姿も電話番号も曝して生きてきている。
連絡が取れ無いなんてことは、絶対に無い。
多分同一人物だと思うが、そいつの記事のコメント欄に、私も新車の外車を買えるほどの金を一括で払ったが、それから連絡が取れ無いと書いている。
新車の外車もピンキリだ。
この20年ほど、自慢にもならねぇが、俺は、一括で500万以上の金は受け取った事のねぇしがねぇ仕置き人だ。
しかも俺んとこは、着手金と成功報酬制で、一括払いなんて事をした事は一度も無ぇ。
投稿者が、深井詐欺師とあったので、思いあたる奴が1人いる。
そやつは欲深い野郎で、それは12年も前の案件だ。
深井と云うのはゲットウエイとか云う投資会社の社長で、奴はそこの社員だった。
早い話が、投資詐欺会社の社員が、己の勤める会社の社長に美味しい話を持ち掛けられて、虎の子の500万を騙し取られたと云う間抜けな話だ。
2~3ヶ月で3000万以上になるからとあり得ない情報を、社長の深井に囁かれて、500万投資したが会社は計画倒産。
会社の業務内容も、計画倒産も、被害者達からの苦情が殺到しメディアが嗅ぎ付けて取材に動いている事も熟知しながら、行き掛けの駄賃にされたと云うお粗末な話だ。
まさか、社員までカモにするとは思わなかったらしい。
奴は社長に返済を迫り、暴力を振るったとして、警察に逮捕されてもいた。
、500万の取り立てを頼んできた。
俺は、詐欺の仲間割れに協力するつもりはなかった。
しかし、その場にいたヤクザがこれを引き受け、トリハンで引き受け、約束の250万近くは、奴の口座に振り込まれていた筈だ。
あの案件は、報道ジャーナルと同じビルの2Fに住んでいた、鬼沢組長が遣らせくれて言ってきたのは、鬼沢の兄貴分だった大塚総長の指示だった思う。
当時の新宿の報道ジャーナルの事務所は、情報収集の為、右翼も左翼もヤクザも仕事師まで出入り自由で、喫茶店代わりにされている感さえあった。
現役のヤクザが、警察沙汰になっている案件で集金に行くのはリスクが有るからと、報道ジャーナルの名前を使わせて欲しいと云うので、最初は俺も同行した。
集金した金の半分は、俺の名前で依頼人の奴の口座に振り込まれていた筈だ。
直接、鬼沢から手渡しされたのも有る筈だ。
ところが、こやつは後になって、3000万以上になるからと深井社長に言われて、500万投資したのだから、3000万以上集金して欲しい。その半分の1500万を振り込んで欲しいと言ってきて、大塚総長を激怒させ、中に入った鬼沢は、体をかけるのを嫌がり、俺に穏便に話をつけて欲しいと頼んできた。
鬼沢が月賦で払うと云うので、800万だか700万だかの借用書を、報道ジャーナルの名前で書いた。
こやつがその頃、いろいろと面白い情報を持ち込んで来ていたからだ。乗り掛かった船と云う奴だ。
奴は深井社長が、大物右翼を連れてきて、総長と500万で手打ちにしたとどこかで聞いたのだろう。
ヤクザ絡みで刑事事件に巻き込まれ、一銭にもならねぇ事で、面倒くせい事になるのは願い下げだ。
その数日後、俺は、奴の持ち込んだ書類を元に、池袋の(東京力飯し)の本社に取材で乗り込み、恐喝未遂で逮捕された。
スタッフ三人で取材に行き、俺1人が三年の刑だったのは、情報提供者の名前や、資料の仕入れ先を供述せず、ごみ箱の中から拾ったとふざけた供述で終わらせたからだ。
出所して連絡し、大塚総長か亡くなり、鬼沢組長が堅気になり行方不明だと奴から聞いた。
奴ともその後、連絡がなくなっている。
記事によれば、今も警察に相談し、刑事と連絡を取りあっているなら、本名で記事を書け!
俺は逮捕された事で、奴を責めた事は無い。
依頼人を庇うのは、この商売をしている以上当然の事だからだ。
何にもまして、ユーチューブ、フェースブック、ツイッター
アメーバフログで俺は顔を曝し、電話番号も載せているのだから、小細工をしないで堂々と連絡してくるべきだと思うのだ。
勿論、警察官、弁護士立ち会いのもとでも一向に構わない。
小細工される事の方が情けない。
因みに今回、名誉毀損で逮捕され、無罪釈放された案件は、5年前の、新宿歌舞伎町のホストを糾弾した記事で、あの記事以来、歌舞伎町のビルから飛び降り自殺する女性客が無くなった事で、俺は逮捕された事を後悔などしていない。