朝ドラ主役「寅子」と「原爆裁判」(下田事件) | 笑う門には福来るのブログ

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【ドラマで取り上げる?原爆裁判判決】

 8月6日は広島に、8月9日は長崎に原爆が投下された原爆忌である。米国により完成されたばかりの原爆が投下され、広島では推定14万人、長崎では推定7.4万人が亡くなったとされる。明らかな国際法違反事案である。

 

 現在放送されているNHK朝ドラ「虎に翼」。主人公の佐田寅子のモデル三淵嘉子元判事は、あまり明らかにはされていないが、「原爆裁判(下田事件)」の審理と判決に古関敏正裁判長裁判官、三淵嘉子裁判官、高桑昭裁判官として加わっていた。三淵裁判官のみは最初から最後までこの裁判に加わっていた。原爆忌にあたり、これに少し触れてみたい。

 

 朝ドラの現在位置は1952年頃で、この原爆裁判は1955年5月の裁判提起、1963年12月東京地裁判決なので、もう少し後になりそうだ。今年の原爆忌に合せて放送されるかと予想していたが、取り上げられかどうかは分からず、取り上げられるとしてももう1ヶ月近く後にはなりそうだ。

 

【原爆裁判(下田事件)ー原爆投下は国際法違反と判決】

 1955年4月、広島と長崎の原爆被害者が、国を被告とする慰謝料請求裁判を起こした。被告の一人の名をとって下田事件とも呼ばれる。東京と大阪に訴訟提起されたが、1957年4月に東京地裁に併合されている。

 

 請求の原因は「米軍の原爆投下は、国際法に違反する不法行為である。したがって、原爆被害者は米国に対して損害賠償請求権がある。その賠償請求権をサンフランシスコ講和条約によって放棄してしまった日本政府は、原爆被害者に補償・賠償すべきである」という。

 

 インターネットでタイプによる判決書(134ページ)そのものをざっと読んでみたが、お決まりの問答無用の判決ではなく、丁寧に当時の国際法に照らし合わせて論述しているのに感嘆した。裁判を主に担った故松井康浩弁護士とは何度か仕事をご一緒したことがある。

 

 1963(昭和38)年12月7日東京地裁は、判決で原告の請求を棄却したが、米軍の広島・長崎への原爆投下は、国際法に違反すると判決した。国際法は原則として、非戦闘員や非軍事施設への攻撃を禁止している(軍事目標主義)。また不必要な苦痛を与える兵器の使用を禁止している。原爆投下は、いずれにも違反すると判断した画期的判決である。

 

 論点は、国際法に違反するか、被爆者個人が米国に損害賠償を請求できるか、米国裁判所がそれを受け入れるか、請求権はサンフランシスコ講和条約で放棄されているのか、国は損失補償をすべきではないか、などなどだが、判決は、丁寧に各論点にあたっている。

 

【その後の法律改正に大きく影響】

 被爆者の補償について、判決の最後では「終戦後十数年を経て、高度の経済成長をとげた我が国において、国家財政上これが不可能であるとはとうてい考えられない。われわれは本訴訟をみるにつけ、政治の貧困を嘆かずにはおられないのである」と明言している。

 

 この判決はその後の救済法の改正に大きく影響する。1957年の「原子爆弾被爆者の医療等に関する法律」→1968年の「原子爆弾被爆者に対する特別措置法」→1994年の「原子爆弾被爆者の援護に関する法律」と繋がる。

 

 更に、1996年国際司法裁判所は、「核兵器の使用、使用の威嚇は、一般的に国際法に違反する。ただし国家存亡の極限状況においては、違法・合法をいえない」と判断した。

 

 この「原爆裁判」判決には、三淵元判事の意見が色濃く入っていると思われる。一国の民事裁判とはいえ、米国の原爆投下を国際法上違法と判断するのであり、国際問題にも発展しかねないものだったであろうし、裁判官には相当なプレッシャーを感じたに違いない。

 

 三淵さんの実の息子さんには、この原爆裁判については全く話していないそうで、多くの著書でもほとんど触れていないようだ。それでも判決書の行間を読むにつけ、三淵さんのお人柄が強く偲ばれる。ドラマでも、ぜひ取り上げてもらいたいテーマである。