儲かっていない中小企業はには「粗利率が低い」という共通点があると、KMS経営会計事務所の代表である公認会計士・税理士の川崎晴一郎氏はいいます。今回の記事では、詳しくみていきましょう。
〇儲かっていない中小企業は「粗利率」が低い
失礼を承知で言うと、儲かっていない中小企業の損益計算書を見ると、これでは儲からないですよね、と一目でわかることが多いです。注目すべきは粗利率(売上総利益÷売上高)です。とにかくこれが低い。売上高が大きければまだよいのですが、中小企業なので売上高も大きくありません。売上高が小さく粗利率が低い場合、人件費や広告費といった販管費を賄うための粗利(売上総利益)を稼げないため、営業利益を確保できません。粗利率が低いのは多くの場合、値段設定が低いからです。いわゆるP戦略のミスです。競合他社に勝つためと、値段をあえて低く設定して勝負しようとしている場合はまさにこの状態です。また、競合ひしめく業界に新規参入した場合も、競合による値下げ合戦の結果として粗利率が低い状況からのスタートとなってしまいます。粗利率が低い商品・サービス自体を選択している時点で、その中小企業の負け戦がほとんど確定します。なぜなら、たくさん売れないと赤字になりますし、たくさん売るための仕組みを、儲かっていない段階の中小企業が用意するのは茨の道になるからです。たくさん売るためには人手が必要ですし、その人たちへの教育もしなければなりません。集客のためのマーケティング活動も必須です。設備投資をし、在庫も確保しなければなりません。利益がまだないしょっぱなの段階から、すでに多くの手間とコストがかかります。これにさらなる苦労が重なります。社員が増えれば社員間のトラブルが増えます。売上が増えるまで儲からない期間が続きますので社員の給料を増やせず、忙しい思いばかりをさせた結果、せっかく教育した社員が辞めてしまうこともあります。その上お客様の数が増えるわけですから、お客様のクレーム数が増えます。そして、そんな苦労をした割に、結局思っていたほどたくさん売れなかったりします。よくあるパターンなので身近な会社に思い当たる節はありませんでしょうか。ただでさえ経営資源が少ない中小企業において、たくさん売らなければ儲けられない構造にしてしまっていることは非常にリスキーなのです。たくさん売れなくても地獄、たくさん売るための茨の道も地獄であり、儲かる見込みが著しく低くなってしまいます。もともとたくさん売れる「確証的」な見込みがあったり、建設業や不動産業のように販売単価がとても高ければ、粗利「額」を確保できるのでよいのですが、そうでない限り粗利率は少なくとも50%は確保したいところです。粗利率が低く、そして売上も少ない「ジリ貧」の会社は、まず粗利率の改善を考えましょう。
〇粗利率を上げるには、まず「価格の見直し」から
そのために第一に考えるべきは、価格の見直し(値上げ)です。価格を見直す際は、堂々と「値上げします」といわずとも、値上げと気づかれないようメニューの組み合わせを変えたり、新サービスを導入したり、同じものでも見せ方を変えたりするなどして、しれっと行うことも考えられます。粗利率の改善の視点からは、値上げせずとも原価を下げることでも実現できます。企業努力で製造原価や仕入原価を下げることが第一ですが、低い原価で新しいメニューを構成し、既存の価格帯で売るという方法も考えられます。あるいは、既存のお客様を捨てて新しいお客様にシフトチェンジすることも粗利率向上の施策として有効です。粗利率が低いのは、御社の商品・サービスを提供するお客様の質が悪いからでもあり、「おたくみたいな商品なんてどこにでもあるし、別にそんなにほしくない」と思っている人に、「まあまあそういわずに買ってくださいよ、ほかよりも安くしますので」と、媚びて販売しているようなものなのです。プライドを持って作り出した商品・サービスであれば、もっと高く買ってくれる人はきっといるはずです。世のなかの全員に買ってもらう必要なんてありません。御社の商品・サービスを高く買ってくれる人を想定し、その人たちのニーズにマッチする形に付加価値を乗せて適切に届けることができれば薄利の商売になんてならないはずなのです。中小企業は何をおいても薄利を狙ってはなりませんし、薄利に追い込まれてもダメなのです。粗利率をできるだけ高く設定できるよう、よく考えてみましょう。高粗利率を確保することが、中小企業が儲かるようになるための最重要ポイントです。粗利率を〇%増やすことができたら営業利益がいくら増えるでしょうか。まずはワクワクしながらそんなことを考えてみてください。なお、販売数量を減らさずに粗利率を増やすことができれば最高なのですが、仮に販売数量が減ることになったとしても、営業利益が変わらない水準にキープできるのであれば、販売数量が減ることで省ける手間の分、実質的なプラスとなります。

川崎 晴一郎公認会計士・税理士
KMS経営会計事務所・株式会社KMS代表

幻冬舎ゴールドオンライン / 2022年11月7日 17時15分