帝国データバンクが11月9日に発表した2022年10月の全国企業倒産(法的整理かつ負債1000万円以上を対象)は、前年同月(512件)比16.0%増の594件となり、6カ月連続で前年同月を上回った。年上半期とは一転し、年下半期は増加基調に転じている。また、2022年1月~10月の累計件数は5214件となり、前年同期を168件上回っている。2021年の年間倒産件数は6015件で帝国データバンクが全国企業倒産集計の発表を開始した1964年以降、1965年(5690件)、1966年(5919件)に次ぐ歴史的な低水準となったが、増加基調に転じている現状を踏まえると2022年は過去最少を更新する可能性は低いとみられる。そうしたなか、今回は最近の大型倒産や話題性の高い企業の倒産において不適切案件が増えていることや、地域金融機関担当者から聞いたコロナ禍で倒産する企業の共通点について解説する。(帝国データバンク情報統括部阿部成伸)
●コロナ前の大型倒産で続出した 「粉飾」が再び増加の恐れ
近時発生した負債額が大きな倒産や話題性の高い倒産について経緯を調べると、周辺から「粉飾決算」「融通手形」といった言葉が聞こえてくる。振り返るとコロナ前の2019年の倒産動向の大きなポイントは「業歴の長い」「事業規模の大きい」「商品・サービス・店舗名の知名度が高い」の3要素を備えた優良企業において「数十年以上にわたる粉飾」が発覚。倒産に至るケースが続出したことだった。当時は地方銀行を中心とした金融再編が最終局面を迎えていた。それに伴って水面下で融資先の選別、デューデリジェンスが進められ、かつてない深掘りの実態調査が行われた例もあったと聞く。「長年融資取引してきた地場の有力企業の中には、実態は債務超過や不適切会計の疑いがあるなど問題を抱える先もありましたが、歴代の担当者の間では暗黙の了解となっていた」(某地銀支店担当者)というケースもあったようで、長年のしがらみで切るに切れなかった関係を見直そうとする過程でそうした不正が次々と明るみに出たのかもしれない。そして、2020年も同じ状況が続くと予想していたのだが、コロナが発生して状況は一変。金融機関は資金繰りに困った中小企業への融資対応で多忙を極め、既存融資先の定点管理や実態調査を十分に実施できなくなってしまった影響が大きかったのだろうか。不適切会計を理由とした倒産を全く目にしなくなった。それどころか、コロナ関連融資によって倒産件数は激減した。しかし今では、コロナ関連融資は行き渡り、据え置き期間を経て返済が始まる企業が日に日に増えている。つまり、これからについて検討し、話し合っていくタイミングでついに不正が隠し切れなくなり、息絶える企業が増えているとも考えられる。コロナ禍での経験を踏まえると、コロナ禍を境に業績開示しなくなった企業や急に役員が交代した企業、主力取引先が変更した企業、異常な業績伸長を見せている企業などには特に動向を注視する必要があると考える。
●コロナ禍で倒産する会社に 金融機関の新規取引先が多い理由
2019年に年間8354件だった全国企業倒産は、2020年に7809件(前年比6.5%減)、2021年は6015件(同23.0%)にまで減少した。コロナ関連融資をはじめとする中小企業支援策の執行による効果が大きく、コロナがなければ2020年、2021年に淘汰されていたはずの企業までもが延命された結果ともいえよう。しかし、そうしたなかでも倒産は日々発生している。コロナ融資が効かないほど業績が悪化したのか、経営者の士気が下がってしまったのか、主力取引先が倒産したのか、取引を打ち切られてしまったのか…などなど考えても机上の空論だ。そうしたなか、都内の地域金融機関(信用金庫、信用組合)の本部を訪れ、融資の担当者からコロナ禍で倒産する事業者の共通点について尋ねると、これまで知らなかったコロナ融資現場の実態が見えてきた。実際に質問を投げかけると、複数の地域金融機関の担当者から出てきたのは「新規取引先」という言葉だった。「区からの紹介などでこれまで当金庫と取引のない小規模事業者からの申し込みが一定数ありましたが、その中に倒産する事業者が多く見られます」(都内某信金幹部)コロナ融資の執行は全国的に2020年の5月、6月、7月頃に集中。そして多くの事業者は据え置き期間を1年以内に設定した。「1年後にコロナは収束しているだろう」という当時の人々の何となくの心理が影響していたのだろう。しかし、1年たってもコロナは収束しなかった。当然、据え置き期間を終えて返済が始まる事業者の中には、予定通り返済できない先が出始める。そんなとき、日ごろの金融機関とのコミュニケーションがその後の社運を左右することもあるようだ。
「新規先の倒産が目立っています。コロナ前から融資取引をしている事業者の多くは、ゼロゼロ融資、既存融資を問わず返済が厳しくなったら相談に来ますので(リスケジュールなどの)対応が可能です。しかし、ゼロゼロ融資で取引が始まった事業者を見ると事前に何の相談もなくある日突然事業を停止し、弁護士から受任通知が送られてくるケースが多いです」(別の某都内信金担当者)さらに続けて本音を漏らす。「相談してくれれば何とかなった先は多かったと思います…。新規先の倒産が相次ぐ要因は、金融機関との取引経験や情報量に乏しく『困ったら相談する』という発想がないことと考えます。コロナ融資が予定通り返済できない状況になったことを金融機関に知られたら大変だと考えていたのでしょう」(同)それまで融資実績がないような小規模事業者だからこそ、倒産しやすい状況にあったとも解釈できるが、困ったときに相談する発想がないという共通点の指摘は実に的確で納得できる背景だ。平時からの金融機関とのコミュニケーションは、有事の際のスムーズな再建への近道になると中小企業活性化パッケージで強調されたことは記憶に新しく、今後、中小企業が生き残っていくための不可欠なファクターといえる。来年春以降、再びゼロゼロ融資の返済が始まる企業が増加する時期を迎え、同時期における倒産動向を注目する金融機関担当者は多い。実際、帝国データバンクの調査では2022年9月の全国企業倒産件数は583件でそのうち負債5000万円未満の小規模倒産が356件(構成比61.1%)を占めており、小規模事業者ほど倒産リスクは高いことがデータからもわかっている。コロナ融資を受け、相談もなく突然事業を停止する小規模事業者はこれからも増えていくのだろうか。

2022/11/10(木) 6:02配信 diamondonline