○事前説明に赴いた市長に浴びせた言葉
「何で俺の発言だけ問題あんねん、お前、こらぁ!」「ええ加減にせぇよ!  お前、こらぁ!  都合のええことしやがって、われぇ」
昨年9月に録音されたデータには、すさまじい怒号が飛び交う音声が記録されている。居酒屋での酔客同士の喧嘩ではない。場所は、奈良県橿原市議会の議長室である。なぜこのような場で、暴力団員のやりとりと見紛うばかりの怒鳴り声が響き渡ったのか。怒声の主は、橿原市議会議長(当時)の原山大亮氏。日本維新の会奈良県総支部で幹事長を務める市議である。一方、怒鳴りつけられていたのは、橿原市の亀田忠彦市長だ。なぜ、こんな騒動になったのか。音声が録音されたのは、昨年9月15日の午前11時から開かれた会合でのこと。亀田市長と、市議会議長だった原山氏、副議長や特別委員会の委員長らが出席した。実は奈良県では、2031年に国民スポーツ大会(旧・国民体育大会)の開催が内々定している。奈良県は、そのメイン会場として橿原市を推し、県立橿原公苑と市営橿原運動公園を交換し、整備を提案した。その案が、橿原市議会の特別委員会で審議されていた。市長の亀田氏は奈良県の提案に賛同し、市議会で可決を希望していた。だが、市議会では亀田市長派と反市長派の議員が拮抗し、賛成か反対か、微妙な状況だった。そこで亀田氏が、委員会の前に慣例になっている市議会議長らへの「事前説明」に赴いたのが冒頭のシーンだった。当日、まずは亀田市長が交換の提案について、委員会への資料をもとに説明をはじめた。だが数分ほどすると、突然原山氏が怒鳴り始めたのだ。その音声を書き起こしてみよう。
亀田市長「またいろんな意見を……もうこれをゴリ押ししようなんて、まったく思てないんですよ。でも、県と市が今まで協議してきた結果、一応のたたき台ができたので」
A副委員長(当時)「要は、これは(奈良県と橿原市の)合同案(の資料)いうことやねんな、ほんなら」
○「ええ加減にせぇよ!お前、こらぁ!」
亀田氏「その通りです。ほいで、ただ、委員会する前に議員さんに配ったやつ(資料)が先に出ちゃうとね、やっぱりいろいろと問題が」
原山氏「なんで、なんで俺の発言だけ問題あるって言われやなあかんねん」
亀田氏「何の話ですの……」
原山氏「何で俺の発言だけ問題あんねん。こらぁ、お前、市からのお前(奈良)県からの書類て書いてあるやつ、なんでお前、(橿原)市の意見も入っとる、お前、こらぁ」
亀田氏「そら県が作ったんですもん」
原山氏「お前の発言ほんなら問題ないんかい!  俺の言うことだけ問題あんのか、こらぁ」
この会合で提示した資料について、亀田市長が「委員会の前に外部には出さないように」と事前に守秘義務の遵守を求めたのが、原山氏の気に障ったようだ。ここで激昂した原山氏は、足で机を蹴ったという。A副委員長が「議長、ちょっとちょっと」と止めに入ると、亀田氏も「怒らんで話したほうがいい」と宥めた。すると、
原山氏「ええ加減にせぇよ! お前、こらぁ!  都合のええことしやがって われ!」
亀田氏「都合のええようなことなんか、なんもしてないですよ」
怒った原山氏は腰を浮かせて亀田氏に迫ろうとした。そこをA副委員長が「議長!」と声をあげて、冷静になるように求めた。
亀田氏「議会の意見聞く言うとるんですから」
原山氏「好きにせえ、ボケ!」
事務局担当者は原山氏の剣幕に「フッフッフッ」と場違いな笑いを浮かべるしかなく、A副委員長も「いやまあ」と言うだけ。
亀田氏「おかしないですよ、別に」
○仁王立ちになった議長
A副委員長は「いやいやいや」となんとか場を和らげようとした。だがそれでも、原山氏の怒りは爆発した。
原山氏「どこがおかしないねん。なんで俺のこと言うたらあかんねん。何が問題やねん、言わんかい!  お前の言うこと問題ないんか!」
亀田氏「(提案を)つぶしたろ言うたのは(原山)議長だけの意見でしょう」
原山氏「それで、お前、事前に資料配って議員に、何、制限かけとんねんお前」
亀田氏「だってこれ、委員会する前に公開するのおかしいでしょう」
原山氏「守秘義務あんのかよ。ほんなら、出すなよ」
亀田氏「なに?」
原山氏「制限かけんねんやったら、出すないうとんねん」
亀田氏「なんで制限かけたらあきませんの?」
原山氏「ちょっと法律教えたってよ。議員に制限、その、守秘義務あんのかどうか」
亀田氏「これかけることは法律違反ですか?」
事務局担当「いや、そら法律違反でもなんでもない。ただ、その……」
亀田氏「お願いします、でしょ?」
事務局担当「だからそれは、議長は、議員のそういういろんな資料をもらっていろんな……」
収録されている音声は以上だ。この後もしばらく、原山氏の怒りは続いたという。亀田市長に訊いた。「この音声のようなやり取りがあったのは事実です。市議会の中で怒号が鳴り止まない事態については、お恥ずかしい限りで、あるまじき行為です」とこの音声の存在を認めた。「原山氏は急に怒り出し、録音にあるような『お前、こらぁ』とすごんできたのです。仁王立ちになり、飛びかからんばかりになったこともあり、周囲が慌てて止めに入った。とても怖かったが説明をしないわけにはいかない。それでも、原山氏の怒りはなかなか解けませんでした。これまで、市職員からも原山氏の恫喝、叱責は聞いていました。録音の内容から、パワハラは当然ですが、強要、脅迫になりかねない。市職員を守るためにも、今、刑事告発など手続きを検討しています」(亀田市長)
○本人を直撃すると
一方で、原山氏はどう答えるか。「その日、確かに議長室で、意見対立して言い合いがあった。だが、恫喝とか強要とか、私はそんな言い方はしていない。声を荒げたりもしていません。なぜそんなことを亀田市長が言っているのか、わかりません」しかし、その場に同席していた橿原市の関係者はこう証言する。「原山氏の怒りようはすごかったです。立ち上がり、飛び掛かりそうなこともあり、肝を冷やしました。A副委員長が止めに入って事なきを得ました。亀田市長の説明に特段の問題は感じず、どうしてあんなに怒るのか、よくわかりませんでした。橿原市議会では、亀田市長派と反市長派で対立があり、そういう背景が、原山氏のひどい言動につながったのかもしれない」結局、奈良県から提案があった交換案は、昨年11月に、橿原市議会で否決された。亀田氏は別の案で、メイン会場を誘致する方向を模索している。橿原市は、神武天皇が祭られている橿原神宮で知られる歴史ある街だ。天皇皇后両陛下が2019年の即位の際には、橿原神宮近くの神武天皇山陵に拝礼に訪れている。今年4月22日には秋篠宮ご夫妻も参拝した。亀田氏が言う。「国民スポーツ大会には、天皇皇后両陛下がこれまでもご臨席されております。神武天皇の関係からも、橿原市がメイン会場になれば素晴らしいことだと個人的には思っていました。また、交換案では、メイン会場の周辺整備まで奈良県が費用負担するということで、橿原市に大きなメリットがあると私は推進をしていた。市議会で意見の違いはあって当然ですが、賛否について恫喝まがいに抑え込もうという手法は、民主主義にあって絶対にやってはいけない」
この3月に議長職を退き、現在は議会運営委員長を務める原山氏にとって、民主主義とは何だろうか。そして日本維新の会にとって、民主主義とは何だろうか。それが突きつけられる騒動である。

2022/4/27(水) 6:02配信現代ビジネス編集部