後払いの約束で大量の商品を仕入れ、代金を支払わずに商品を処分して逃げる-。古くからある「取り込み詐欺」と呼ばれる手口で3千万円以上の商品をだまし取ったとして、大阪府警が7月、詐欺容疑で男6人のグループを逮捕した。男らは20年以上前に設立され、現在は活動実態のない休眠会社を悪用。この休眠会社には、10年ほど前に別の取り込み詐欺にも使われたという“前科”があった。男らはどのようにして大量の商品をだまし取ったのか。
○初回は期日前の支払い
「民泊の設備管理をしている。災害が増えているので発電機を注文したい」
電化製品を取り扱う大阪市内の工具店に、男(48)が取引を持ちかけたのは平成30年秋のこと。男は「三建商事株式会社大阪営業所」所長と名乗った。営業所の所在地は大阪市港区。当時、大阪ではインバウンド(訪日外国人客)が急増しており、男は「民泊にも外国人客が増えている」と説明した。初めての取引相手ということで、店主の80代男性は社内の様子を見るために営業所を訪問。そこでは従業員が忙しそうに働き、家電製品が山積みになっていた。初回の注文は約30万円相当の発電機。納入すると、期日よりも早く代金が支払われた。続けて発電機や業務用掃除機計140台を受注。初回の取引で三建商事を信用した男性は、販売価格で約1千万円にもなる商品を全て営業所に納入した。

○2カ月でもぬけの殻に
ところが、今度は期日が過ぎても入金がない。所長とも連絡が取れなくなり、営業所を訪ねると、そこにいたはずの従業員や電化製品は跡形もなく消えていた。初めての訪問からわずか2カ月後のことだった。大阪府警によると、グループは同様の手口で、この商店を含めた4つの会社から発電機やエアコンなど計約500点(約3300万円相当)をだまし取った疑いがある。電化製品は家電量販店などに転売していたとみられ、一部は関係先に残っていた。ほかにもこのグループによるとみられる被害相談が寄せられているといい、被害額は合わせて1億円規模に上る可能性もある。これだけの犯行が可能だった背景には、先に正規の取引をしたり、活気のある社内の様子を演出したりという工作に加え、休眠会社の存在がある。グループが使った登記簿では、三建商事の設立は平成9年。21年には警視庁が、三建商事の名前を使って東京都内の会社からステンレス鋼板をだまし取ったとする詐欺容疑で、別のグループを逮捕している。この事件でも、詐欺グループは実際に代金の一部を支払うなど手口は共通している。ただ、資材を注文する際の文言は「道路公団の仕事を請け負った」。登記上も建築資材の販売などが目的とされていた。

○実績のある事業者
三建商事が今回、大阪府警が逮捕した詐欺グループの手にどのように渡ったのか、詳しい経緯は不明だ。ただ、犯行の約1年前、三建商事は住宅宿泊事業などに目的を変更している。ちょうどインバウンドの増加とともに民泊が広がってきた頃で、上り調子の事業に使うためであれば、大量の電化製品の注文も不自然ではない。もし取引相手に登記簿をチェックされても、20年以上の実績のある事業者を装えるという狙いがあったとみられる。かつて取り込み詐欺に利用された休眠会社の登記が再び悪用された格好だが、受け付ける側の法務局も年間数万単位で設立される法人登記を一つ一つチェックするのは不可能なのが実態。見せかけの信用にとらわれないことが、悪質な詐欺被害に遭わないために重要だ。

2020.8.31 08:00|産経WEST