ベトナム中部のリゾート地ダナン市は国が、最先端のIT都市とすべく位置づけをしているベトナム第3の都市です。ITの都市づくりは、政府と企業、大学とがコラボレーションして初めて出来上がるものです。再エネ活用を含めた効率的な電力利用がなされるスマートシティ、若いIT企業が多数誕生し、また存続する起業支援サポートが整っているインキュベーションシティ、IT人材が育つ教育機関が整っているカレッジシティ。こうした要素がそろい有機的な結合を生み出している都市こそ、正にIT都市と言うに相応しいと思います。ダナン市ではスタートアップフェスティバルを開催したり、ダナン市人民委員会ではスタートアップ調整員会をつくったり、本格的な取り組みを進めようとしているようです。ダナン市には公設の起業支援拠点と民間の支援拠点が存在し、若手起業家をサポートしています。

 

先ずは公機関である2016年に設立された「DNES」(Inovation Hub By The Sea)です。ダナン市役所の近くにある拠点は、ダナン市人民委員会(50%)と民間(50%)から資金が入り、公と民のパートナーシップによるモデルが構築されています。役員には、ダナン市元人民委員会副委員長も名前を連ねています。元ダナン市役所から転職してきたJENNIE LY、民間企業出身のNHI NGUYEN、2人からヒアリングを行い、現場の案内をして頂きました。施設としてはシェアオフィス、CowrokingSpace、相談Spaceがあり、投資家とのマッチングイベント等も適時開催され、投資家組織としてのエンジェルネットワークも構築されています。また、180日間プログラムがあり、企業間のコラボ、起業支援、投資家の紹介、メンターサポート、経営支援サポートが準備されています。スイス、イスラエル、フィンランド、英国、オーストライア、ベトナム、アジア開発銀行、メコンビジネスイニシアティブ等が国際連携パートナーとなっていて、DNESからいくつかの企業が育ち始めています。シェアオフィスはほぼ満室、CowrokingSpaceにも多くの若者がPCに向かい、自分の構想をまとめていたり、コーディングしていたりと熱気があります。利用者は、学生はおらず、インキュベーションプログラム受講者、イベント参加者、フリーランス、大企業従業員と幅広い人々です。

 

民間の起業支援拠点「SONGHAN INCUBATOR」は、ダナンの建築大学校舎の中に設置されています。大学の部屋も全てを使っているわけではないので、有効活用ということになるかもしれませんし、大学生が身近に起業相談に来ることも出来るという利点もあるのだろうと思います。Founder兼DirectorであるLY DINH QUANから、ダナンのスタートアップの状況をヒアリングしました。SONGHAはダナン初の民間インキュベーション施設で、フィンランド、ポーランド、ベトナム政府等の支援も受けているそうです。SONGHANは、ダナンの他にもハノイ、ホーチミンに拠点があり、イベント開催、コミュニティーの形成、エコシステムの確立に努めていると言います。ダナンでは、IOT、ビックデータ、旅行業に関するスタートアップが多く、2017年は旅行の価格比較アプリの企業が誕生したそうです。訪問時も起業準備をしているグループが議論をしていて、何かを生み出していく雰囲気が存在していました。施設面では、公的施設であるDNESにかないませんが、民間だからスピード感を持って出来ることもあるのではないかと思います。

 

公的施設、民間施設、両者はそれぞれが長所を活かし、切磋琢磨できる環境にあることが、スタートアップエコシステムを確立することに繋がると思います。一方で、現況ハイテク工場がないので、製造業にITが直接かかわる状況下にはありません。IT都市を目指すとするならば、起業するIT人材が育つ環境が必要であると同時に、起業支援拠点を運営するスタッフも育てる必要があるのです。日本が出来るサポートは投資家を紹介するだけではなく、支援拠点運営スタッフの育成につても協力出来るのではないかと思います。ベトナムのIT企業は、多くは受託開発を担う企業で、自らが新たなビジネスをつくり、国内外で展開している企業は少ないのです。受託開発には限界があるので、一歩前に踏み出していくことが大切であり、日本がサポートできる分野もこの部分にあると思います。