雲海の上、飛行機は翼を下に向け
空気孔をあけた。
成田のホテル街が見える。
私の頭の中を、
今までの海外旅行が走馬灯のように思い出された。
これが私の最後のフライトになるだろう。
「事実は小説よりも奇なり」という。
筋書きのない、ドラマのような私の人生。
１年前までは、
水泳やエアロビクス、山登りなどを楽しんだ。
しかし昨年、医師から突然難病と宣告された。
脚はフラフラし、字は書けなくなる。
口はだんだんと回らなくなり、
知人に電話するのも難儀になった。
それも、たった１年で。
銀座の小さな画廊で個展を夢見たのも
主人の退職後いろんな所へ行くのも
みなみな夢と消えた。
病になってからは、家の中ばかり。
足で立てるうちに、と
主人の助けを借りて旅に出ることにした。
それが今度の旅である。
病になって初めて旅に出て
よくわかった。
この世は健常者のみの社会だということが。
私は不意に病になった。
原因不明、治療方法もない。
今度入院した時は、
管をたくさんつけ植物状態となるだろう。
多くの知人や名も知らぬ人、
多くの動物達の愛に囲まれた人生。
この病を除けば
私の人生は幸せだったのかも。
雲上の機内。
わたしの手の上には主人の手があった。
「ありがとう」と何度もお礼を言いつつ
心の中で手を合わせた。
以前、新聞の読書欄に投稿された記事を
メモに残していました。
添乗員研修でも時々披露していましたが
お客様のバックグラウンドは私たちにはわかりません。
もしかしたら、
私がこれまで出会ったお客様の中にも
”これが最後の旅行”という覚悟で
参加してくださった方もいたかもしれません。
毎回、真剣に向き合っていたか？
そう自分に問いてみれば
答えはNo
お客様第一主義と口では言いながら
自分第一主義になっている時もありました。
しかし
どれだけ反省したところで
過去に戻ってやり直すことはできません。
できるのは、
今、この瞬間を懸命に生きること。
次があると思うから手を抜く
これが最後の舞台
この覚悟で向き合うことが大切ですね。