8月は、鎮魂の月です。

文学で戦争を追体験することは、明日の平和を祈ることにつながる気がするのです。

直接的ではないけど、戦争の重みを戦後の生き方で知らしめた夫婦を描いた作品が、島尾敏雄の『死の棘』ではないでしょうか。

 

梯久美子 『 狂うひと 「死の棘」の妻・島尾ミホ 』  新潮社 2016

 

梯久美子さんが、島尾ミホ本人へのインタビューと、彼女の死後残された島尾敏雄の日記や手帳、未発表原稿などをもとにして書いたた評伝です。

島尾敏雄・ミホ夫妻の戦時下での出会いと戦後の結婚生活は、まさしく

「事実は小説より奇なり」

この本を読む前に、島尾敏雄『死の棘』と島尾ミホ『海辺の生と死』を読んでおくと、その実感は強まるでしょう。

『死の棘』にある敏雄の愛人「あいつ」の実像も気になるところですが、

私が最も気になったのは、不実な父と狂う母に翻弄されながら育った兄妹、伸三とマヤのその後です。

 

息子の伸三さんは後に写真家となり、写真家の女性と結婚し、まほちゃんという娘も誕生し、幸せそうな家庭をもっていることがわかり安心しました。

伸三さんは写真集『まほちゃん』、『小高へ 父、島尾敏雄への旅』 のような家族をテーマにした本も出しています。 

伸三さんの娘、しまおまほさんは、漫画家、タレントとして活躍されているようです。

彼女はエッセイ『まほちゃんの家』で、叔母のマヤさん(お父さんの妹、島尾敏雄・ミホの娘)の思い出を愛情をこめて綴っています。

 

大人の心を見抜くような大きな瞳が印象的なまほちゃん。

まほちゃんがミホさんの孫だったとは❗️

 

一方、島尾敏雄・ミホの娘、マヤちゃんは、若干四歳にして、両親の壮絶な諍いに、「カテイノジジョーヲシナイデネ、スコヤカニネ」と懸命に仲をとりもつ場面が 『死の棘』 に描かれています。

マヤさんは10歳の時言葉を失い、その後も数々の病気に見舞われましたが、いつも静かなほほ笑みをたたえた天使のような女性だったようです。

しかし、母より先に52歳で病死します。

 

島尾敏雄、島尾ミホ、島尾伸三、島尾マヤ、そして、しまおまほ。

読めば読むほど、この家族の歴史と内面への興味が尽きません。