6月4日8時7分

マイが息を引き取った。


朝5時まで前足を痙攣させ泣き続けた。

目を見開き瞬きもせず、意識が遠のいて見るからに苦しそうなのに、一晩中どうする事もできなかった。


何度も寝返りを打たせて、少しでも楽な姿勢を探るけど泣き声は止まない。呼吸も荒いまま。


こんなに苦しむなら、安楽死させてあげる方がいいのでは?と何度も自問自答した。


数時間前の再診察で「これは尿毒症ではないですか?苦しんでませんか?呼吸苦ではないですか?もっと苦しみが増して来ませんか?」

と何度も聞いた。


先生は「それは無い、尿毒症の状態ではなく認知症の状態、呼吸苦ではなく興奮状態、本人はそんなに苦しい訳ではない」と面倒がらず、急かさず、じっくり聞いて答えてくれた。


でも13年マイを見てきた私には、認知症による興奮とは思えず、もう限界だよ!と叫んでるように思えて、「もし苦しむなら楽にしてやりたい、この子は十分頑張った、もう頑張らせたくない」と言ったけど、夫も先生も今は安楽死の時ではないとの判断で、朝まで様子を見ようと言うので、結局鎮静注射で帰宅する事になった。



結果、鎮静注射は全く効かず、一晩中苦しむ事になった。

先生から、今日は3回も鎮静剤を入れたので、もし目覚めて興奮しても、これ以上は投与しないようにと言われていた。



3年前、重度の腎臓病で倒れて以来何とか元気に過ごせてきたけど、数値は依然高く、いつまた倒れてもおかしくない状態で、この2ヶ月、特にこの1週間は口からのアンモニア臭もひどく、尿毒症を恐れていた。


尿毒症による耐え難い苦しみが訪れたなら、延命ではなく、苦痛からすぐに解放してあげようと決めていたのに、結局、苦しむ姿をただ見守ることしかできなかった。



私にはマイの泣き声が


「しんどいよ、苦しいよ、痛いよ、怖いよ」


と聞こえて仕方なかったのに、どうする事もできなかった。


数日前、老犬ホームに行き、寝たきりの子の介護について色々教えて頂いた際、一匹の痴呆症の子が大きな声で吠えていた。


一晩中続いたマイの泣き声は、その子の健康的な要求吠えとは全く異質な、悲痛な叫びに聞こえた。


何が正解だったのだろう。

どうしてやればマイに取って最善だったのだろう。


最後まで苦しみ抜いたマイの姿と顔が忘れられない。


息が止まる3時間前、泣き続けて声も枯れ、息も絶え絶えのマイの目に少しの変化が見えた。


それまで、空を凝視した目は蝋人形のようで、瞬きもせず、視線が全く合わなかったのに、初めてこちらを見た。


数ヶ月前から視力はなく、ほぼ見えてないのにこの瞬間確かに目が合ったように感じた。


閲覧注意

息を引き取る3時間前


白濁した右目はどうしても吊り上がって見えるけど、左目のまつ毛が私の声に答えるかのように、何度も微かに動いた。

そしてそれまでの苦悶が一瞬消え、和らいだように見えた。


マイ、見えてる?わかる?

母さんそばにいるよ、よく頑張ったね、しんどかったね、ごめんね、ごめんね


だけどまた苦しげな様子になり、声は全く出なくなり、8時7分、ひくっひくっと肩で2回息を吸って完全に呼吸が止まった。


抱え上げると、オムツから血が溢れ出た。

内臓から出血していたのだ。


どんなに苦しかっただろう。

どうして苦痛を取り除いてやらなかったんだろう。

この小さな体でどんなに忍耐強く耐えてくれたことか。




長時間の苦闘だったにもかかわらず、マイの顔は穏やかでかわいかった。



えひめ犬猫の会から来た当初、全く泣かない子で、もしや声帯を切られてる?と思うほどだったのに、最後の日に一生分の声を張り上げた。


よく通るいい声だった。

こんなに大きな声が出せる子だったのだ。


若い時はノラちゃんで、一度決まった里親に飼育放棄され、再放浪して苦労して…




最後は苦痛なく眠らせてやりたかった。


マイ、最期まで立派だったよ。

マイに出会えて本当に幸せだったよ。

最期にこんなに愛らしい顔を見せてくれてありがとう。

13年と3ヶ月、そばにいてくれてありがとう。

また必ず会おうね。