田中さんのお母さんが旅立って数日後
たまたま届いた使う予定だったブライダルジュエリー
もう使わないし…と思って
『メルカリとかで売ろうと思うんだけどやったことある?』と田中さんにLINEした。
たぶん、いきなり喪中になった事へのショックさとどこにもぶつけられない怒りから
そんなことを言ってしまった。
そしたら帰ってきて
「あのLINEはなに?嫌がらせ?俺へのあてつけ?」
まぁ…そうなるか。
ただ、そうじゃなくて、
慰めてもらいたかっただけな気がするけど。
それだけじゃなくて、
喪中だとその期間は神前式もできないと
書いてあったり
楽しみにしていた年明けの神社も四十九日はダメと書いてあって
やっぱりどこにもぶつけられない怒りみたいなのが
あったんだと思う。
そうだよね。
そんな事言われたら俺が悪いの?
母親が具合悪いのだって知ってたよね?
って言われても当然だった
ウェディングドレスの試着をたくさんしてた途端
喪服の試着ばかりになった事が
ただただ悲しかったんだ。
でも田中さんはギューって抱きしめてはくれなかった。
一番最初の夫は
流産した時
ギューって抱きしめて
抱きしめたまま眠ってくれた
『ふこちゃんの好きなもの、好きなところに行こう!俺がお金出すから!』と言ってくれた。
離婚を決意したのは
二度目の流産のとき。
子ども好きな彼をこのまま縛っておくことが
窮屈に感じたし、
誰かと人生を歩むのも疲れた。
そう、
誰かと人生を歩むのは疲れる。
田中さんの怒った顔や声が頭から離れない
私の父も叔父も同じようなタイプで
普段は温厚なのに
怒るとすごく怖くて
男の人は苦手だった。
彼が怒る理由はごもっとも。
でも、私へのケアは?
通夜も告別式も参加してと言われて
いきなり「奥さん」として
話したこともない人の葬儀に二日間
知らない方たちに挨拶してまわって
それがフリーズドライのいちごのお菓子一つで
ありがとねって。なに?
色々疲れてしまって
むこうはその後「何かあったら言ってよ」と
いつもの田中さんを装ってたけど
あの怒った顔や声は
やっぱり男の人は怖いなぁ
男の人苦手なんだなぁ
と再確認することになった
もはや写真婚や結婚式で揉めるなら
さっさと撮っちゃうか
一年延期にしといてそのまま放置するしかない
早く四十九日が終わったら
別れさせてくれるかもしれない神社に
連れて行こう。
別れたいか別れたくないかは分からないんだけど
早く試してみたい
女の神様だから
的確に判断してくれるみたいで
今のところ前の夫も元カレも行ってから2ヶ月以内には別れてるから試してみたい。
朝シャワーを浴びてたら
ふと流産した時の朝を思い出して
泣いてしまった。
この世にこんな悲しみがあるかってくらいに
生きてるのが嫌になる朝だった。
未だに消化できてない自分に嫌気がさす。
あの時子どもが産まれてたら
一番理解してくれてた元夫と離れることは
なかった。
また誰かと生きることを選んだのに
昨日の出来事から
誰かと生きることを面倒だと感じるようになった
どうか、放っといて
私だけの空間で暮らしてた場所に
彼が入ってきて
自分のパーソナルゾーンを彼のモノが埋めていく
お気に入りだったテレビもテレビ台もソファも
彼のでっかいテレビとソファに埋め尽くされた
パーソナルゾーンに侵入されて以来
そのデッカいテレビを見るのもなんだか
億劫になった。
小さい方が好きだったのに。
木目調のテレビ台好きだったのに。
誰かと生きるのも
喧嘩をするのも
知らない怖い一面見るのも
もう面倒。
田中さんを幸せにする自信はなくなった。
この人とは根本的に性格も考え方も
合わない。
付き合ってた時に見せないあの怒った顔。声。
男の人全員がそうではないけど
私は男の人が怖くなった。
こんなんなら婚活しないで
のんびり1人で生きてた方が気楽だったな。
その女の神様にきいてみようと思う
この人とはどうですか、と。
そしてたぶん言われるであろう。
「やめとけ。」と。