ちょうど3カ月前、こんな記事を書いた。
続編をにおわせておきながら3カ月も放置、正確には途中、関係のない投稿をするなんて仕事以外は本当に計画性のない自分に呆れつつ、気になっている人など皆無であろう「往路物語」の続編「復路物語」を書くことにした。
【復路物語】
生きた心地がしないままアポを終えた私は、復路はタクシーアプリに頼ることにした。
配車手配から数分してタクシーが到着した。「アプリ最高!」嬉々として乗り込んだ私に、往路ほどではないけれどもそこそこ高齢のドライバーが声をかけてきた。「おっきなスタジオでんなぁ。おたく、プロのカメラマンでっか?」
嫌な予感がした。
「いえ、あの、ただのスタッフです」。適当に答えながら“スタッフ”というワードの便利さを改めて実感しつつ、そこそこ高齢のドライバーに一抹の不安を感じた。とはいえ、アプリで手配したタクシーなのだから大丈夫だろう。実際、行き先を告げることもなく無事に出発したのだから…不安を打ち消して安堵したのも束の間、そこそこ高齢のタクシードライバーの怒涛のおしゃべりが始まった。
「ここのスタジオからはたまにべっぴんさん乗せますねん」
「CMの撮影でっか?」
「忙しいんですやろなぁ」
客の返答も相槌も寄せ付けないそこそこ高齢のドライバーの会話は、いつの間にか趣味の話に移行していた。
「うちらくらいの歳になると、カラオケくらいしか楽しみがないんですわ」
「ほぼ毎日仲間とカラオケしてますねん」
「この前も仲間内の大会で優勝しましてん」
これは…自慢の歌声を聞くまで目的地まで届けてくれないかもしれない。
謎の強迫観念に駆られた私は思わず言ってしまった。
「一節お願いできますか?」
「いや〜お客さん、恥ずかしいですわ〜」
そこそこ高齢のドライバーは、嘯きながらも明らかに嬉しそうだった。それはそうだろうな。
「なんとかなんとか〜〜〜♪」
聞いたこともない曲を気持ちよさげに歌い上げるそこそこ高齢のドライバーの一節に「早く終わってくれ、というか目的地に早くついてくれ」と願っていると、一節を歌い終えたそこそこ高齢のドライバーから思わぬ一言が飛び出した。
「お客さん、行き先どこでっか?」
本家「西方冗土」よろしく嘘のようなオチに、私は天を仰いだ。