目の前のものが見えない

 

10月5日、めでたく生きて53歳の誕生日を迎えられた私だが、入院生活は単調だ。

 

フィンランド式ログハウスというオシャレな病院の庭に面したダイニングルームで

朝も昼も夜も一人で食事をとる。他に入院患者もいたと思うが、会った記憶はない。

 

目にダメージがある私は日当たりのいいダイニングの光が眩しくてたまらない。

ガラス張りで、庭に面しているのに眩しすぎて庭の光景がはっきり見えない。

この庭は入院期間中、近くにあるのにぼんやりとしか見えない、謎庭だった。

 

ダイニングルームには、TVもあった。目が辛いから、テンションが低いローカル局の情報番組を眺めていた。多分この日だ、桜塚やっくんが、交通事故で亡くなった、という報道があったのを覚えている。

 

そして、この日、この病院にも救急の患者さんが運ばれてきた。私は病室に友人Tと一緒にいた。

 

少しして声が聞こえてきた。「〇〇ちゃん、なんでなのよ~、どうして一番若いあなたが先に逝っちゃうのよ」

 

という叫び声に何人かの泣き声がまざっている。

 

姉妹で一番末の方が多分脳卒中で亡くなったようだった。

 

「ダメだったんだね、YUFちゃんは生きてて良かった」とTが言ってくれるが

その時の私は、まだ生きててありがたかった、という気持ちにはなれていない。

 

バチ当たりだと今なら思うが、「なんで私がこんな目にあってるんだよ、おかしいだろ!」

 

くらいにしか思えない、53歳のやさぐれた おばさんだった。

 

to be continued.