左目の黒目が動かない
「YUFさん、ちょっとこの指先を見て!」Aさんが言った。
目の焦点がうまく合わなかったけれども、指先を追うくらいならできる、と思った。上、下、右、左とMさんは指先を動かす。私は両目でその指先を追った、いや追えているつもりだった。
しばらく、そんなことを繰り返した。
Aさんは、ため息をつき、スマホを出して電話をかけ始めた。
誰かと話をしている「左目が動いていないです・・・・はい、はい、視床下部の第4脳室ですか・・・」と神妙に誰かの話を聞いている。
電話の相手は仕事関係でお世話になっている有名な脳外科のO先生だった。
私の左目が固まってしまっていたのを確認したMさんは、「これはひょっとして貧血なんかじゃなくて、脳かも。」と見当をつけてO先生に電話をかけて聞いてくれたのだ。
左目がうごかない、という状況からまず、脳に間違いないという回答だった。
海外で手術をすることも多くご多忙のO先生が電話にすぐに出てくれたことは、奇跡みたいなもので、今私が生きているのもそのお陰だと思う。
この時O先生からのアドバイスは「急いで東京に戻って、大学病院に行きなさい」というものだった。
箱根で救急車に乗って地元の病院に行くよりは、大学病院の方が確実な手当が受けられるという配慮だったのだと思う。
でもこのアドバイスにしたがっていたら、間違いなく私はもっともっとたいへんなことになっていただろう。
to be continued.