おそらく人生で初めてのDJは、六本木にあるクラブだったと思います。繁華街の派手な空間ではなく、落ち着いたラウンジやバーに近いお店。なので、ダンス・ミュージックを繋いでいくというより、好きな曲を次々にかけていくというもの。たしか、ファラオ・サンダースの「YOU’VE GOT TO HAVE A FREEDOM」など、当時持っていたアナログ・レコードをかけていました。 

  

  もともと持っていたレコードもあれば、DJを始めるにあたって新たに買い足したものもあります。もちろんCDは普及していましたが、市販されているものではあまりクラブ・ミュージックがなかったのと、単純に「DJといえば、レコード」という先入観に従いました。

 

 テクニクスのターンテーブル2台、VESTAXのミキサー、さらにPIONEERのCDJ700を2台購入し、いつでも部屋でDJできる環境を作りました。三宿WEBでも最初はレコードを持参しましたし、当時は「CDは邪道」という空気がありましたが、そこから徐々にCDに移行したのには理由があります。

 

 パソコンで曲作りをする前に、「リミックス」に興味があったので、AKAIのMPC2000XLというサンプラーを購入しました。音を取り込んでリミックスするのですが、出来上がった曲をクラブでかけるには一度CDRに焼かなくてはなりません。そのためにCDレコーダーという別の機材も必要なのですが、自分でアレンジした曲をクラブでかけることが楽しくなり、レコードよりもCDRを使用する頻度が増したのです。

 

 ただ当時、CDJという機材は、いきなり蓋が開かなくなったり、CDRを読み込まなくなったり、トラブルが頻発。また、お店に必ずあるわけではないので、事前確認が必要だったり、見たことのない機種が置いてあったり、何かと苦労しましたが、ブース内のターン・テーブルは徐々にCD置き場になって行きました。

 

 その後、CDJが進化していくと、パソコンでDJをしたり、USBメモリーやSDカードなども挿入でき、とても身軽になりました。レコードの持ち運びを弟子がやる時代は遠のき、CDさえいらなくない時代。音楽の聴き方も変わりました。いつでもどこでも、所有せずとも手軽に聴ける。しかし、ダウンロードやストリーミングにすっかり慣れてしまったのに、無性にレコードが使いたくなってきました。納戸に眠っていたターン・テーブルを引っ張り出し、ミキサーに配線し直すと、もうこれだけで場所をかなり占拠されます。久しく使っていなかったので、針圧を調整したり、針自体を交換しないといけません。レコードも湿気に弱いので、クリーニングしないと針を傷めてしまいます。

 

 やっとの事で環境が整い、久しぶりに鼓膜を通過するアナログ・レコードの音。レコードが回転し、針が接するときの音。プチプチというノイズ。全てが懐かしい音。針を落とす時は、武道のような緊張感がありますが、A面からB面をひっくり返すことなどの一連の動作やそれに付随する匂いは、デジタルにはない安心感も与えてくれます。単に音だけではなく、そう言った手間こそ、自分が求めていた感触だったのかもしれません。

 

 レコードが今でも愛されているのは、利便性に溺れ、流されゆく日々の中で、アナログ・レコードと向き合うことが、音楽という「時間」をしっかりと感じさせてくれるからではないでしょうか。嫌われがちな「面倒くさいもの」こそ、人間には必要で、我々はそれらを愛していることに気づいていないだけ。ターンテーブルのある生活は、私に、「手間」や「面倒くささ」という、アナログの感触や匂いを与えてくれているのだと思います。

 

 

 

 

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