先日出演しました、NHK-FM「川口アーカイブス・レコード三昧」は、本当に楽しい時間でした。そもそも、川口という立地。20代の頃に知り合いが住んでいたので何度か訪れたことはありますが、ほとんど記憶に残っておらず。もちろん、NHKのアーカイブスや放送システムがあることも。かつてイベントで春日部まで出向いた心境に近いものがあり、仕事というよりも祝日のドライブ気分で向かいました。しかし、4連休。予想以上に交通量は多く、世の中が「GOTO」していることを実感しました。

 

「こちらには、30万枚のレコードを保管してあります。」

 

 川口の街中を走っている間に番組がスタートしました。「三昧」シリーズはかつて「渋谷系」の時にスタジオ出演がありましたが、今回は「アナログ・レコード三昧」ということで、全てアナログ音源を電波に乗せるというものです。そしてNHKらしい落ち着いた口調の矢口さんの語り。広い空き地に設置された巨大なアンテナが見えてきました。

 

「ここか…」

 

 NHKのテレビ放送開始50周年事業の一環として、2003年に開設されたそうですが、複合施設内とはいえ大きな建物で、館内はとても綺麗です。

 

「レコード見に行きますか?」

 

 楽屋に荷物を置くと、レコードを所蔵するフロアへ。放送内で使用する楽曲は決まっていましたが、どのように保管されているのか見てみたいもの。そうして案内された先は、皆マスクをしているのもあり、秘密の実験室にでも入るような緊張感がありました。扉が開くとひんやりした空気。温度や湿度もしっかり管理された部屋には、レコードだけでなく、撮影のフィルムも保管されていて、酸味の効いた独特な香りがマスク越しに伝わってきました。中古レコード屋さんのようにではなく、図書館の書籍のようにぎっしりと、一枚抜くのも大変なくらい隙間なく並べられています。たまたま手にとったレコードは「オノ・ヨーコ」のアルバムでした。

 

 撮影フィルムも昔は、テープが勿体無いので上書きされていたようで、貴重な映像も無くなっています。そういうものでも、視聴者の方で録画していることがあるらしく、昔の雑誌「ぴあ」の中にもありましたが、「どなたか録画されている方いませんか?」というやりとりが今もなお続いているのだそう。

 

 出演は、午後1時から90分。その中でオンエアできる曲数はもちろん限られています。これもかけたい、あれもかけたい。順番はどうしよう、と事前に頭を悩ませていた時間も、幸せなひと時でした。考えてみれば、サタデーナイトはいつもこうでした。しかも、放送しながら順番を変えたり、差し替えることは多々あり、CDとはいえ、スタッフも大変だったと思います。

 

「オフコースで、僕の贈り物」

 

 優しいコーラスがスピーカーから飛び出した時です。

 

「え、これはまずいかも」

 

 そう思った時には遅く、一気に涙腺が崩壊してしまいました。幼少の頃から様々な記憶が詰まっている音。迂闊に聴けない曲なのですが、ロケットマンショーでもかけていたので大丈夫だと油断していました。映像が浮かぶ訳ではなく、即座に心のタンクが破裂。もはや90分なんて無理かもしれないと思いましたが、なんとか立て直すことができました。

 

 私が最初にレコードを手にしたのは、幼少期。家にあった大きなステレオの脇に、父と兄の所有するものがビニールに入って並んでいました。誰もいない時間に内緒でレコード・プレイヤーの蓋を開け、適当に選んだレコードを乗せ、針を落とします。しかし、回転しても音が聞こえてません。かすかに鳴っているようですが。たくさんあるつまみをいろいろいじると、ようやくスピーカーから出てくるアナログの音。オフコースやビートルズを始め、クラシックやイージー・リスニングなどもあり、まるで、レコード屋でネタを探す若者のように、幼ながらに出会いを求めていました。

 

 兄の真似をして、レコードをカセットテープにダビングもしました。A面とB面がうまくテープに入らなかったり、録音レベルが小さかったり。昨今のクリックしてダウンロードとは訳が違います。中学生くらいでCDが登場し、みんなが「音がいい」というからそんな気がしていましたが、正直、よくわかっていませんでした。音楽の先生はレコードの音の方が好きだと力説していた記憶。実際、レコードには「ぬくもり」や「あたたかさ」があるという話をよく耳にしますが、科学的根拠はありません。しかし、CDのようにデジタル化され、可聴領域でカットされた音は「クリア」に聞こえるとされる一方で、アナログの、可聴領域の外側にある振動に、我々は「あたたかさ」を感じているのかもしれません。

 

 実際、ターンテーブルを購入したのは、20年ほど前。DJを始める際です。最初はわざわざレコードを持参してDJしていたのです。

 

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