最初に向かったのは、1000人ほど収容できるホール。扉の前に溢れる人がゆっくりと吸い込まれていきます。見渡す限り外国人。やはりフランス人が多いのだと思いますが、始まる前も日本のそれと違って非常に賑やか。授業前の休み時間のようです。どこからともなく拍手が起こると、指揮者に続いてソロの演奏家たちが登場。それぞれの位置につくと、たちまち静寂と緊張感に包まれます。ベートーベンのトリプルコンチェルト。そして、静寂に穴を開けるように、ピアノの音が。柔らかく、舞うようなピアノの調べ。そこには、若き日本人ピアニストの姿がありました。藤田真央さんです。

 

 チャイコフスキー・コンクールで準優勝。今や世界で活躍する藤田さんですが、実は以前、お会いしたことがありました。というのも、「きらクラ!」ではなく、北斗晶さんの紹介で、「5時に夢中!」に生出演していたのです。当時はまだ中学生だったと思います。その藤田さんが、立派な世界に誇るピアニストとして、今、聴衆を魅了しています。

 

「最高でした!!」

 

 終演後、スタッフの方に案内され、藤田さんの楽屋へ。彼は当時のことをしっかり覚えていてくれていました。「きらクラ!」もよく聴いてくれているようです。

 

 その後、ケータリング会場で本日何食目かの食事をし、ホテルに戻るやベッドに倒れました。このホテルはキッチンなどもついた長期滞在型のホテルのようで、一人ではもったいないくらいの広さ。朝8時。日照時間が短いのか、外は薄暗く夜のようです。朝食を終え、会場に向かう頃には空も明るくなり、川沿いを歩く石畳の街。今日は一日ベートベン三昧。朝から晩までぎっしりと詰まっています。

 

 まずはアカペラコーラス・グループ「VOCES8」。こちらは、館内中央のステージで繰り広げられるフリーのプログラム。柔らかな歌声がゆっくりと場内を温めていきます。終盤には、聴衆と一緒に歌う展開があったのですが、お客さんに求めることのレベルの高いこと。手拍子だけではなく、振付のようなものや、4小節くらいのワンフレーズを歌ったり。一糸乱れぬレスポンス力の高さに圧倒されました。さすがフランス。さすがラ・フォル・ジュルネ。

 

 続いて向かったのは、二千人の大きな会場。ここでは、「ベートーベンVERSUS coldplay」というユニークな演目。ベートーベンの楽曲に、あの「coldplay」の歌をのせるという大胆な試み。発想もさることながら、生オケをバックに歌い上げる「coldplay」に、たくさんの歓声が溢れました。

 

 次の会場では、ステージにグランドピアノが2台並んでいます。自由席だったので一番前の席で待っていると、4人の女性ピアニストが拍手を浴びながらステージに上がります。ここにも世界で活躍する日本人ピアニストがいらっしゃいました。ピアニストの広瀬悦子さん。二つに別れて奏でるベートーベンをモチーフとした連弾は、アレンジも素晴らしいですが、何より四人の呼吸。一瞬でもずれたら大変なことになるものを、見事な演奏をされていました。

 

 二つの公演を終えて戻って来ると、フリー・スペースから素敵な音色が聞こえてきます。駆け寄ってみると、やはりそうでした。スチール・ドラムの演奏。トリニダード・トバゴからやって来た楽団「RENEGADES STEEL ORCHESTRA」。あの名曲「just the two of us」の国。本物のスチール・ドラムは初めて見るかもしれません。トロピカルな「第九」に、つい踊り出したくなりました。世界中から演奏家がやってきて、いろんな音色やリズムで奏でられるベートーベンに興奮せずにはいられません。クラシックとはいえ、とても自由さを感じます。

 

「最前列で聴いていました!!」

 

 ケータリング会場で昼食を摂っていると、演奏を終えた広瀬さんがいらっしゃいました。このようにケータリング会場にはスタッフだけでなく、演奏家の方にもお会いできるので、不思議な感覚になります。エクレアにコーヒーを飲むと、次のプログラムまで少し時間があるので、会場の周りを散策することにしました。