パリから飛行機で1時間ほど。「ラ・フォル・ジュルネ」の本場、ナントに到着しました。「ナントの勅令」「ナント・サン=ナゼール」かつて世界史で登場した記憶こそありますが、街並みのイメージもなく、実際足を運ぶのも初めて。小さな空港を出ると地面が濡れていました。

 

「こちらがロワール川になります」

 

 ロワール川が大西洋に注ぎ込む河口の町。かつてはフランスの4割の貿易を担っていたそうです。コーディネーターさんに案内され、雨に濡れる夜のナントをタクシーが走ります。街灯りにぼんやりと浮かび上がるロワール川。中洲をつなぐ橋を渡ると、随所でベートーベンの顔が光っています。

 

「ラ・フォル・ジュルネ」が最初に開催されたのは1995年。ナント国際会議場を有効活用する目的もあったそうですが、この中の複数のホールで朝から晩まで数多くのクラシック・コンサートが催されます。初心者でも気軽に楽しめるように演奏時間も通常のコンサートよりも短めかつ低料金。服装も自由。とはいえ、出演者は一流のアーティストたちが世界中から集まってきます。演奏者も多ければ、観客も回を重ねる毎に増えて行きました。

 

 そして現在では、東京をはじめ様々な都市で開催され、世界最大級のクラシック・フェスティバルになりました。前回お伝えした通り、東京で開催されるようになったのは15年前からで、全く同じプログラムではないものの、一流の演奏者が集います。

 

「では、30分後にロビーで」

 

 ロワール川の支流の川沿いにあるホテルにチェックインしたのが現地時間の18時頃。現地は日本のマイナス8時間なので、疲労困憊ではありましたが、このままベッドに倒れるわけには行きません。アンバサダーは会場に向かいます。海が近いからか、雨のせいか、生ぬるい暖房が効いているような気候。コートなどなくても平気です。

 

「ナントの雨はすぐ乾くので」

 

 コーディネーターさん曰く、乾燥しているから雨もすぐ乾くので、傘をあまり使用しないとのこと。霧雨を浴び、ベートーベンの看板に照らされながら会場に入りました。

 

 今回の演奏会場は9箇所あり、それぞれのチケットを購入して入場するのですが、館内中央にはフリーのステージがあり、開催期間中の5日間は朝から晩まで入れ替わりで演奏が行われます。お客さんの多さと熱気に圧倒されていると、一人の男性が目の前に現れました。

 

「ラ・フォル・ジュルネへようこそ!」

 

 メガネをかけた小柄な男性。彼こそ、このイベントの主催者ルネ・マルタン氏。この方が創設者であり、音楽監督。全てのプログラムを決めています。もちろん、日本でも。「ラ・フォル・ジュルネ」は「フィガロの結婚」の一節から来ているそうです。

 

「とても楽しみにしていました。ご招待していただき、ありがとうございます。」

 

 挨拶を済ませると、私は、お目当てのコンサートに向かいました。