「グランドピアノがあるそうです」

 

 T-1グランプリに参加するだけではく、放課後、体育館で講話をしてほしいという依頼を受けたのが数ヶ月前。せっかくみんながいるのだから、ただ話をするよりも、みんなで「とんぶりの唄」を歌いたい。それもCD音源ではなく、ピアノ伴奏で。そんな願いを込めて、学校に確認すると体育館にはグランドピアノがあるとのこと。環境は整いました。

 

「とんぶり応援大使のふかわりょうさんです!」

 

 拍手を浴びて向かう、体育館のステージ前。講話のテーマ「とんぶりの輪」と書かれた垂れ幕。席に案内されると、まずは4年生による「とんぶりの唄」の踊りがステージ上で披露されました。歓迎の儀式のようです。

 

「すごい!変わってる!」

 

 とんぶりの帽子をかぶった子供達がステージいっぱいに広がって、新たなフォーメーションができています。いつ練習したのか、今日のために考えてくれたのでしょう。きりたんぽ祭りでは背後で見られなかったので、こちらも込み上げるものがありました。ステージから子供達が戻ってくると、講話の時間。と言っても、小学生なので込み入った話はすぐに飽きてしまいます。クラスメイトや先生、お母さんやお父さん、毎日見ている景色こそが奇跡なのだということを伝えました。今はピンとこなくても、きっと、いつかわかってくれるでしょう。

 

「それでは、例の物を持ってきてください」

 

 今年はとんぶりの輪を実感する一年でした。とんぶりのおかげで、たくさんの人と出会い、素敵な景色を見ることができました。そして今日の交流が一過性のものでなく、これからも続くように、これからみんなで唄いましょう。教頭先生に合図を送り、音楽準備室に眠っていたタンバリンや鈴などが運ばれてくると、それぞれに生徒たちが群がります。

 

「この楽器やりたい人!」

 

 颯爽と手が挙がった中で、体格のいい、やんちゃそうな男子に任せたのは、ウィンド・チャイム。シャラララーンと綺麗な音の鳴る楽器です。

 

「風になってこのチャイムを鳴らすんだよ。君の感覚でいいからね」

 

 グランドピアノの前に座り、軽く前奏を弾くと、合図なしでみんなが歌いはじめました。もうしっかり体に入っているようです。

 

「では、次、本番いきますよ!」

 

 改めてピアノ伴奏が流れると、タンバリン、鈴、手拍子が重なり、ウィンド・チャイムが響きました。歌声が体育館に広がっていきます。

 

「食物繊維たっぷり!」

 

「ナイスとんぶり!」

 

 全校生徒と、先生と、親御さんと、みんなで奏でるとんぶりの唄。この模様が、夕方のニュースで流れました。

 

「今日は本当にありがとうございました」

 

 拍手の中、体育館を後にする応援大使。荷物をトランクに載せると、みんなに見送られながら、タクシーはゆっくり進んでいきます。日帰りでしたが、あっという間に過ぎた時間が、深く心に刻まれました。大館の街を、雪が彩っていました。