校舎が近付いてくると、どこからか声が聞こえてきました。

 

「おーい!!」

 

 見上げると、教室の窓から身を乗り出すように、みんなが手を振っています。まるで映画のワンシーンの中にいるようです。ちょうど休み時間だからでしょうか。全校生徒が笑顔で迎えてくれました。込み上げるものをぐっとこらえて、手を振り返します。

 

「ふかわりょうさん、今日はお越し下さりありがとうございます!」

 

 下駄箱を抜けた一階のホールに、生徒たちの歓迎の挨拶が響き渡ります。

 

「今日はよろしくお願いします」

 

 教頭先生に案内されて歩く廊下は、自分の母校ではないのに懐かしい匂いがします。全校生徒で100名ほどですが、校内はとても活気があって、元気な大館の子供達が飛び回っています。

 

「とんぶり食べてる?」

 

「食べてる!」

 

「今日給食に出た!」

 

 まるでディズニーランドのミッキーのように、行く先々で子供達が群がってきます。きりたんぽ祭りの舞台上で駄々をこねた少年もいました。校長先生と挨拶を交わし、T-1グランプリの会場に向かいます。

 

「それでは、今日審査員を務めるふかわりょうさんです!」

 

 調理実習室には、エプロンと三角巾をつけた4年生の生徒たち、父兄の方々、そしてたくさんの報道陣が待っていました。4年生はきりたんぽ祭りでも一緒に踊っているので、もうだいぶ顔馴染み。

 

「今日はみんなのとんぶり料理を楽しみにして来ました!とんぶり大使として、全国に広められるような、素敵な料理を期待していますね!」

 

 3つのグループに分かれて、それぞれ一品ずつ調理するようです。どんなとんぶり料理ができるのでしょう。調理の様子をしばらく見届けたら、マスコミの取材に応じる時間。夕方のニュースに流れることで、とんぶりが家庭の食卓に並びやすくなります。

 

「ここ音楽室ですか?」

 

 移動中、廊下の端にある部屋が気になりました。音楽準備室と書かれた札。中に入らせてもらうと、そこにも懐かしい彩が待っていました。

 

「これって、後でお借りしてもいいですか?」

 

 僕の頭の中で、アイデアが浮かびました。そろそろ、料理もできる頃でしょうか。

 

「みなさん、できましたか〜?」

 

 美味しそうな香りで充満した教室。審査員席に座ると、3つのとんぶり料理が出てきます。炊き込みご飯のようなとんぶり飯と、ふんわり卵で浮かせたとんぶりの味噌汁、そしてもう一つは、ホワイトチョコレートを使用したとんぶりチョコレート。

 

「ナイスとんぶり!」

 

 それぞれに工夫が見られ、どれも素敵なとんぶり料理でした。審査員だけでなく、みんなで投票して、一番票の入ったものがT-1グランプリの優勝になるのですが、今年はとんぶり飯がグランプリになりました。

 

「ご馳走様でした!」

 

 審査が終わると、もう一つ、依頼されたことがありました。それは、30分ほどの講話。全校生徒と父兄の方々が集まる体育館。窓の外は雪が降っています。暖かな拍手の音に吸い込まれるように僕は、歩いて行きました。