ある夏の日のこと。家族で奥多摩の方に出かけた帰り道。車は渋滞にはまっていました。

 

 車内の音楽はいつもオフコースだったのに、その日は僕が持ってきたカセットテープがデッキに入っていました。「ドラゴンクエストinコンサート」そのようなタイトルだったと思います。

 

 言わずとしれた、R.P.Gの金字塔、ドラゴンクエスト。発売されたのは1986年5月27日。小学5年の時。いまだに覚えているのは、延期に延期を重ねて、やっと発売されたから。当時は、あまり注目されておらず、クラスで待ち望んでいたのは僕くらい。しかし世に出てみれば、たちまちムーブメントが起こったことは、その後のシリーズの数からしても明白です。その人気を支えた柱の一つが、BGMでした。

 

 ゲーム音楽は今でこそ注目されていますが、以前はあまり脚光をあびることはありませんでした。そんな風潮をドラゴンクエストが変えたのです。作曲、すぎやまこういち氏。有名な作曲家を起用することで、ゲームの世界観は広がり、奥行きが増しました。

 

 グラフィックが今ほどリアルでなくても、すぎやま氏の音楽が、脳を刺激し、ドラクエの世界に没入できました。本当に、勇者になれた気がしました。

 

 「ドラクエ」自体の人気とともに、その音楽が愛された結果、オーケストラで演奏というコンサートが開催されました。あのゲーム音楽が、オーケストラで。それは、ドラクエのそれがいかに音楽性が高いものであるかを証明するものでした。

 

 その音源がカセットテープで並んでいました。コンサートには行っていませんが、ピアノでコピーするほどドラクエの音楽が好きだったので、なけなしのお小遣いを叩いて購入。たちまちヘビロテとなった、そのテープの中にはいっていたのです。

 

 サン=サーンスの「動物の謝肉祭」。子供向けのコンサートというのもあり、比較的わかりやすい楽曲がコンサートで演奏されたのでしょう。もちろん、お目当てはドラゴンクエストだったので、「白鳥」くらいしか知らない当時の僕にとっては、あくまでおまけ。なんとなく聞き流す程度でした。

 

 そのテープが、渋滞の車の中で回転しています。ゆっくりと陽が落ちて、空が夕日に染まり始めると、マリンバのような音色が高らかに鳴り響きます。動物の謝肉祭の「化石」。その音が、車窓の景色と見事に合致し、身体中に電流が走ります。心と体が、光と音を飲み込む瞬間。僕はただ、黙って車窓を眺めていました。それが、サン=サーンスとの出会い。

 

 いつもはなんてことのない曲が、ある瞬間、心に突き刺さることはあると思いますが、ここまで印象に残っているのは、人生で最初だったからかもしれません。ドラクエに惹かれて購入したカセットテープで出会ったサン=サーンス。もちろん他にも素晴らしい曲はたくさんありますが、動物の謝肉祭を聞くと今でもあの空の色を思い出します。「きらクラ!」放送333回記念、サン=サーンス祭りに寄せて。