「本日よろしくお願いします!」

 

 年が明け、お正月ムードが薄まり始めた頃、レコーディングが行われました。前述の通り、今回のCDは、いろんなバージョンの「とんぶりの唄」を収録することになっています。歌詞こそ同じですが、曲調が違うので、それぞれ歌わなくてはなりません。こちらは作った側なのでしっかりと識別していますが、果たして、美人すぎるトレーダーは対応できるだろうか。そんな不安は見て見ぬフリ。メールをして、彼女の到着を待ちます。

 

 昨年末にとんぶりに出会い、3月にCDリリース。ここに間に合わせるのには、なかなか急ピッチの制作になりますが、これには理由がありました。どうしても、平成のうちに発売したい。平成の最後の作品として、「とんぶりの唄」を形にしたかったのです。新元号になってからではなく、この曲を聴きながら、平成最後の春を迎えて欲しかったのです。

 

「遅くなってすみません!駐車場が見つからなくて!」

 

 僕の中では全然早い到着です。「恋はおかわり」や「期待感ゼロ」でも使用しているスタジオ。ソファに座ってキーの最終確認をすると、レコーディングが開始されました。

 

「では、録っていきましょう!」

 

 とんぶりの唄は、兄パートと妹パートに分かれていますが、製作の過程でどう転ぶかわからないので、お互いに全てのパートを録ることになっていました。

 

「いい感じですね!」

 

 歌いやすい曲だからか、デモをしっかり聴いてくれていたからか、思いのほか歌声は安定しています。しかも、イメージした通り、若林さんの声にも合っていて、ほとんど指示もなく安心して聴いていられました。くしゃっとなった長いブーツ。脱ぎ捨てられたベージュのコート。おてんばトレーダーのレコーディングは順調に進んでいきます。

 

「食物繊維、たっぷり!」

 

 若林さんの決めのセリフを録って、一旦休憩。

 

「うん、行けそうだ!」

 

 これなら今日3曲録れる。不安は確信へと変わっていきました。オリジナルのレコーディングに続いて、80’Sバージョン、EDMバージョンとテンポよく進んで行きます。

 

「お疲れ様でした〜!」

 

 しっかり予習してきてくれたおかげで、妹の声を無事にレコーディング完了。あとは、兄のレコーディングになります。

 

「じゃぁ次、ハモ撮ります〜」

 

 妹にハモリまではお願いできないので、兄のメインパートを録ったら、ハモリを重ねていきます。妹のディレクションと、兄のレコーディングと、とんぶりにまみれた一日。まだ完成ではないですが、実際の声が入るとよりカラフルになります。

 

 レコーディング自体は1日ですが、ここから先が長い道のり。声を整えたり、音のミックス、そしてマスタリングへと、根気のいる作業。登山は8合目から大変だそうですが、ここから先はかなり神経を尖らせないといけない段階で、それはそれは精神や体力までをも蝕んでいきます。完成させるには特別なエネルギーが必要。だからこそ、できた喜びは得も言われぬものなのです。

 

「じゃぁ、これで完パケましょう!」

 

 そうして約二週間後。とんぶり応援ソング、「とんぶりの唄」が完成しました。もちろん、連日作業していたわけではありませんが、その間は四六時中聴いていました。

 

 DDPファイルというものを作成し、マスター音源の納品となります。もう、これを提出したら止めることはできません。そして、ジャケットや歌詞カードなどの紙の納品も終わり、あとは完成を待つだけ。

 

「明日、届くそうです」

 

 レコーディングから2ヶ月ほどたった頃、段ボールが届きました。大丈夫だろうかと、ドキドキしながら開けると、中にはぎっしり、とんぶりたちが並んでいます。

 

 配信やストリーミング・サービスなど、音楽の聴き方は多様化し、時代も変わりましたが、それでもこうやってCDとして形になる喜びや高揚感は変わりません。他では得られないもの。どうか、このCDが一人でも多くの人の手に渡り、とんぶりの輪が広がりますように。そして、とんぶり応援ソングではありますが、みんなへの応援ソングでもあります。日々、辛いこともあるけれど、とんぶり食べていきましょう。春の風に乗って、この唄が、多くの人の心に届きますように。