昨年12月。目の前のテーブルに、キャビアのような形状のものが小皿に載っていました。この番組の予算からして、そんなことあるだろうか。

 

「それでは、とんぶりを使って調理をしたいと思います」

 

「とんぶり?」

 

 もしかしたら、それまで目にしたり、耳にしていたかもしれませんが、しっかりと意識に届いて認識したのはその時が初めてでした。

 

「畑のキャビアと言われるんですよ」

 

「畑の、キャビア?」

 

 どうにも頭で処理できません。これはキャビアの劣化版なのだろうか。恐る恐る口に入れてみると、確かに食感はあるものの、とりわけ味もなく、どう解釈したらいいのでしょう。そんな中、明太子のパスタに投入されていくとんぶり。すでに明太があるのに、そこにこの緑のつぶつぶを混ぜたところでなんの意味があるのだろうと、それほど期待せずに口に運びました。

 

「なにこれ!ちょー美味しい!!」

 

 衝撃でした。この多幸感。歯ごたえが全然違います。とんぶりがいるだけで、劇的に美味しさが増しました。聞くところによると、山芋や納豆、ツナマヨに混ぜたり、醤油を絡めてご飯にかけたり、色々な場所で発揮するのだそう。味がしないのは決して欠点ではなく、他の食材とぶつからず、その食感はチームに馴染むどころか、全体を盛り上げる長所に変わっていました。しかも、魚卵ではないので、とてもヘルシーです。

 

「ほうきの材料?」

 

 さらに驚きがありました。ほうきの材料となる箒木の実。これがとんぶりの正体。今は食べ物はたくさんありますが、昔は決して豊かではありません。どうにかして食べられるものはないかと、厳しい環境の中で生まれたのが、この小さな小さなとんぶりでした。そんな、ひもじい人々を救ったとんぶりですが、現在、深刻な事態に直面しています。とんぶり農家さんが減少しているようです。

 

 僕自身、その時まで知らなかったくらいですから、決して認知度が高いわけではありません。それが農家さんの後継者不足に繋がり、今ではごく一部でしか栽培されなくなってしまいました。このままでは絶滅してしまうかもしれない。そういった背景を知るにあたって、僕のとんぶりに対する気持ちが膨らみ、居ても立ってもいられなくなり。

 

「曲を作ろう」

 

 タンクから溢れて出しました。いつもスタートはそう。感情が音楽の原点。微力ながら、一人でも多くの人に「とんぶり」を知ってもらいたい。とんぶりと、とんぶり農家さんへの応援ソングを作り始めました。

 

 鍵盤と向き合っていると、やがて、天から降ってくるように、メロディーラインと言葉が合致する瞬間が訪れました。

 

「これでいこう!」

 

 とんぶりに出会って、まだ二週間ほどのことでした。