今年も週刊ふかわ、よろしくお願いします。さて、金曜日にオンエアされた「TEPPEN」ご覧になりましたでしょうか。これまで何度か出場してきましたが、聴く人がどう感じたかは別として、今までで一番清々しい気持ちになりました。

 

「クラシックなら…」

 

 エントリーの打診があったのが本番の一ヶ月前。これまでアレンジ曲などにも挑戦してきましたが、指に叩き込むには期間が足りず、幼少期から慣れ親しんだクラシックを弾きたいという想いがありました。DNAにもしっかり組み込まれている。しかし番組側からは、こちらが提示したものではない曲が返ってきました。

 

「小犬のワルツでお願いします」

 

 それは、以前この番組で弾いた曲。最も苦い汁を吸った記憶。思い出しただけで身の毛がぞわぞわ。というのも、その時のルールはミスタッチごとに松明が燃え、5本点灯したら強制終了。ただでさえ緊張感が半端ではないあのスタジオにさらにサディスティックなルールが加わったのです。今思えば、あんなミスタッチしやすい曲をどうして選んだのか自分でもわからないですが、結局、序盤で点灯し、それがまた精神を脅かし、ドミノ倒しのように松明が燃え、あっという間に奈落の底へと転落しました。

 

「小犬のワルツかぁ…」

 

 ルールが違うとはいえ、テンポが早いだけに、一度脱線したら大惨事になりかねない。あの環境の中で弾く曲としては非常にリスクが高いでしょう。しかし、番組側の要望も無視できません。それに、きらクラ!のオープニング・テーマでもある曲を苦い想い出のままにしていていいのだろうか。

 

「わかりしました」

 

 猛特訓の日々が始まりました。家にはグランドピアノがないので、自転車で3分ほどのピアノスタジオに、連日マフラーを巻いて足を運びました。家だと逃げ場がありますが、スタジオだと弾くしかありません。朝と夜と、1日2回訪れることもありました。もちろん家でも練習します。緊張感を高めるために録音もしました。ダウンジャケットを羽織ったり、サングラスをしたり。何が起きても、天地がひっくり返っても弾けるように。どんなに練習を重ねても本番では全く別の感覚になることはわかっていますが、それでも、できる限りのことをやりました。

 

「遂にきてしまった」

 

 当日は朝7時半のお台場。もうやるだけのことはやった。あとは天命を待つのみ。毎回このように言い聞かせては、苦い経験をしてきました。

 

 本番が近づくにつれ、弾ける気が薄れていきます。あれ、どうやって弾くんだっけ。あんなにたくさん弾いたのに、頭の中でイメージするとますます弾ける気がしなくなってくる。緊張に飲み込まれそうです。大丈夫、もう勝手に指が動くんだから。自分の出番が迫ってきました。

 

「さぁ、もう逃げられない」

 

 たくさんの視線と照明を浴びて、グランドピアノの前に座っています。深呼吸をして、鍵盤を眺めます。右手のトリルが始まったら、もう止まることはできません。果たして最後までたどり着けるだろうか。小犬のワルツが響き始めました。

 

「終わった…」

 

 大きく息を漏らしました。清々しい気分でした。途中、小犬がいなくなりそうでしたが、どうにか最後までたどり着けました。もはや点数は気になりません。快晴の空の下にいる爽快な気分になれたのは、守りの演奏ではない実感があったからです。

 

「来年もお願いしますね!」

 

  笑顔で言うスタッフ。頼まれたら断れない性格というのは自分でもわかっています。

 

 中村紘子さんとの出会い。「フーマンの日曜日」や「うたたねクラシック」などの経験が、この瞬間に結び付いたのかもしれません。まだまだ、ピアノから離れられなそうです。

 

 

 

 

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