「あなたはいま、人生の何楽章ですか。こんばんは、ふかわりょうです」


深夜のラジオから流れてくる、隙間の多いピアノの調べ。曲の谷間にきこえてくるのは、羊飼いのことばたち。いつしかそんな番組をやりたいと思っているのですが、僕なら、その質問にどう答えるでしょう。生まれてから成人するまでが第1楽章なら、仕事をはじめてからが第2楽章。そして、服装もファッション性より機能性を重視するようになり、完全におっさんと化した現在こそ、ちょうど第3楽章のはじまりかもしれません。


ふかペディアによれば、5楽章以上からなる曲や1楽章だけのそれもあるそうで、必ずしも第4楽章が終楽章とはかぎりません。協奏曲は3楽章、交響曲は4楽章で構成するのが一般的ですが、冒頭の質問は、人生を交響曲に例えるなら、ということになるのでしょう。


環境が先か、意識が先か。星の動きのように、キリのいいタイミングではじまった第3楽章。楽章が変わるということは、テンポや曲調、もちろん長さも異なります。分母が大きくなるのだから、同じ長さだとしても、同じ速度には感じません。


日常にどのような変化が生じたかといえば、これまではあまりなかった感情が芽生えていました。それは、グループを引っ張ってゆく人間でなければならないという意識。いままでまったくなかったわけではありませんが、ここ最近、僕の心のなかでかなりの存在感を示し始めています。それは、学級委員とか部長とかいうものとは異なるもの。自分が決断し、責任を持ち、関わっている人々を背負っていく感覚と覚悟。月並みな表現になりますが、もう自分だけの体ではない、ということでしょうか。そこには、ファンのみなさんも含まれるわけですが。鶏口となるも、牛後となるなかれ。その言葉に牽引されて辿り着いた場所がいまの自分であり、ここから見える景色を大切にしたい。


これまでになかった音やメロディーを響かせるという意味では、この4月にはじまる舞台も、あらたな音色といえるでしょう。もちろん、2楽章のはじめの頃にも、お笑いの舞台は幾度も経験していますが、いわゆる、「舞台舞台した舞台」は、今回が初めて。一週間ほどの公演があって、この日は夜のみ、この日は昼と夜、みたいな表があって。


伊坂幸太郎作品。その素晴らしさは僕が語るまでもありません。絶妙にズレた愛すべき死神。音楽への執着。本当に素敵な作品に出会えました。この世界に飛び込んで、滲みでてきた色、ここでしか出せない色を、皆さんに楽しんでもらえたらと思います。また、本多劇場という由緒ある舞台。キャスト、スタッフはもちろん、お客様と一体となって、最高の空間を築きたいと思います。


最後に、初舞台ということ、役者ではないということ、不安や葛藤といったもやもやとしたものはすべて、「20周年」という言葉が突き破ってくれました。だからこそ、言葉ひとつひとつを大切に伝えていきたいと思います。life is music。それでは、ふかわりょうの第3楽章、どうぞごゆっくりご堪能ください。