☆†安康天皇暗殺†★ | みらくる☆彡

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 翌安康天皇二年(455)正月、
中蒂姫皇女は大后(皇后)に立てられた。


 安康天皇には皇子女はいなかった。

 つまり、継子ではあるが、
眉輪王にも皇位の可能性が見えてきたのである。


 安康天皇は中蒂姫皇女を寵愛(ちょうあい)していた。

 実子のない安康天皇にとって、
愛する女の息子は、
真の我が子同然であった。
 

 また、安康天皇は、
妻の兄・市辺押磐皇子(いちのべのおしはのおうじ)とも懇意にしていた。

 いずれは彼に皇位をとも考えていたようである。

「後継者はオレではないのか」

 大泊瀬皇子は危機を感じたであろう。

「ここままではまずい」

 そして、よからぬことを考えたかもしれない。


 安康天皇三年(456)八月、
安康天皇は神を祭った後、
楼閣に上り、酒を飲み、
中蒂姫皇女のひざ枕で横になった。 

「朕(ちん)は幸せだ」

 安康天皇はネコのようにほおをすり寄せて丸くなった。

 何も言わない妻の顔を見上げて問うた。

「なんじは幸せか?」

「幸せですとも」

 中蒂姫皇女の言葉に、
安康天皇は安心して目を閉じた。
 
そして、語った。 

「朕には気がかりなことがある。
眉輪のことだ。
あいつが成長して、
自分の父が朕に殺されたことを知ったら、
どう思うであろうか? 
朕は、あいつが怖い」


 眉輪王はそのとき、
楼閣の下で遊んでいた。

つまり、
話をすべて聞いてしまったのである。

(お継父(とう)さんがお父さんを殺した!)

 衝撃だったであろう。

鞠(まり)で遊んでいたのであれば、
鞠を転がし落としたに違いない。


 安康天皇は静かになった。

 中蒂姫皇女のひざの上で、
すっかり眠ってしまった。

 中蒂姫皇女はどう思ったであろうか?

 かつて愛する夫を殺し、
強引に自分を奪った男が、
自分のひざの上で無防備な姿をさらけ出しているのである。

(今なら、この人を殺すことができる……)

 そうは思わなかったであろうか?
 

 楼閣の下では、
眉輪王が呆然(ぼうぜん)と立ち尽くしていた。

 そのとき、眉輪王に声をかけた青年がいた。

「御子、どうしたんですか?」

「僕のお父さんは、お継父さんに殺されたの?」

 青年は驚いたが、否定しなかった。

「そうだよ」

 そして、さらに続けた。

「御子の父、大草香皇子は何も悪いことをしていなかった。
それなのに、大王に殺されたんだ。
大王は悪い人なんだ。ワルなんだ」

 眉輪王は泣きそうになった。

「そんな悪い人のことを、
僕は今までお継父さんお継父さんって呼んでいたんだ……」

 青年が声を潜めてなだめた。

「もう、
そんなふうに呼ばなくったって、いいんだよ」

 そして、
眉輪王にギラリと剣を抜いて手渡した。

「悪い人は今、酔っ払って眠っている。
お母さんが捕まえていてくれる。
御子はこれで悪い人を退治するんだよ。
大丈夫。オレも味方だから」


 眉輪王は青年とともに楼閣に登った。

 そして、惨劇は行われた。

「何をする!」

 刺されて安康天皇は目覚めた。

そして、
自分を取り巻く見知った人々を見て、
声を失った。

「どうしたんだ、お前たち……」


 安康天皇の目はすぐにまた閉じられた。

起こしても起きない、深い深い眠りについた。

彼の味方は、
周囲に誰一人いなかったのである。

享年は五十六と伝えられているが、
もう少し若かったと思われる。


 青年はみんなに言いふらした。

「眉輪王が父の敵を討った!」


http://www.geocities.jp/rekishi_chips/hiko3.htm