1990年代初頭に土地・株式のバブルが崩壊して30年間、日本経済はずっと低迷している。

今でも覚えているのは、1993年、私は経済産業省の電子機器課というコンピュータ産業や半導体産業を担当する部署にいた。そこで「電子産業ビジョン」というコンピュータや半導体といった電子産業の未来ビジョンを書いていた。そのビジョンに「日本の経済規模は500兆円に達し、一人当たりのGDP(国民総生産)もアメリカに迫ろうとしている」と書いたことを今も明確に覚えている。その時は、まさかこんなにも長く経済の低迷が続き、30年後も日本のGDPがほとんど変わらないままになるとは思いもしなかった。

 

日本の経済成長が停滞する一方、世界経済は成長している。

日本のGDPは米中に次ぎ、世界第3位というが、2009年までは世界2位だった。2010年に中国に抜かれて3位になったが、2022年時点で中国のGDPは日本の3倍を超えている。また、2023年にドイツに抜かれて4位に転落するという予想もある。どんどん追い抜かれて離されている状況だ。

また、1995年当時、日本の一人当たりGDPは世界で3位(為替レート基準)だった。それが2021年時点では27位となっている。このままだと、日本の1人当たり名目GDP は2022 年に台湾、2023 年に韓国に抜かれてしまう。

 

このような経済成長がない期間、私はその期間の3割を経済産業省の役人として、1割を東京大学のイノベーションの研究者として、そして6割を国会議員として、継続して日本の経済成長のために働いてきた。経済産業省とし大学ではできる範囲では最大限のことをやったと自負している。しかしながら、国会議員としては、中小企業金融支援・税制改正、自然エネルギーの推進、宇宙・サイバーにする法制度整備など限られた範囲しか貢献しておらず、大学の交付金の削減を止めることや研究開発税制の拡大など抜本的な政策を作ることはできなかった。

 

このような反省も込めて、これからの経済政策をどうすべきか。時に経済成長の中核となるイノベーション、科学技術力について考えてみる。

■アメリカの失われた30年

下図は1870年からのアメリカの「国富」の推移をしめしてものである。アメリカも1960年から1990年にかけて「失われた30年」を経験している。

世界恐慌、ITバブル崩壊、リーマンショックなど大きな経済ショックがある時に、国富は伸びていないことがわかる。そして、注意すべきところは1960年から1990年までの30年間、途中で石油ショックなどはあったものの30年という長期にわたり、国富の蓄積は停滞したのである。ちなみにこの30年間に日本の経済は約25倍になり、⽇経平均は100倍以上に急成⻑している。

 

 

しかしながら、1990年以降、アメリカは⽇本のイノベーションから学び、それもより強化して、復活した。

 

■アメリカ、そして中国は日本の産業政策に学んだ

1995年アメリカ ポストにある マサチューセッツ工科大学(MIT)に留学した。今でも忘れられないのはMIT の図書館に「メイド・イン・アメリカ」という日本でも出版された本の資料集 が保管されていたことだ。その資料集は本だな一つをほとんど独占していた。

『メイド・イン・アメリカ:Made in America』は1989年にアメリカで刊行された。本調査では

・日本企業が長期的視点に立った経営

・日本のジャスト・イン・タイム生産システムの効率性

などが指摘された。

本にすれば 200ページ程度の 本である。MITがこの研究の事務局を務め、事務局を務めたリチャード・K. レスター教授と話をした(2000年にレスター教授の著書「競争力―『Made in America』 10年の検証と新たな課題」を藤末は和訳出版) ・レス―教授は、「メイド・イン・アメリカ」を作るために当時 で数億円という資金が使われ、そのための調査レポートは前述のように 本棚 1つを占めていた。例えば、当時アメリカの産業界で大きな話題となっていた「カンバンシステム」だけで数冊の分厚いレポートがつくられていた。

これだけ大規模な研究を行い、日本の製造業の強さを分析しそれをアメリカに取り入れたのである。ちなみに中国も日本の産業政策を研究し「中国製造2025」という「中国版メイド・イン・アメリカ」を作り、通信、半導体、EV、原子力などの技術力を、国を挙げて強化している。

一方、日本は、1990年代の日米構造協議などを通じ、特定の産業を育成するターゲティングポリシー(産業政策)を捨ててしまった。

これから経済安全保障の観点から安全保障に必要な産業の育成が必要となる。今こそ20年前に捨てた産業政策を復活すべき時に来ている。

 

 

■韓国並みの研究開発投資を実現すべき(研究開発投資を1.5倍に)

主要国の研究開発費総額の推移を見てみると、中億がWTO入りをした2001年以降に急激に伸び、今では日本の4倍近くになっていることがわかる。正直なところ、電気製品・スマホ・PCなどの製品技術、AI、バッテリーなどの最新技術いおいて日本は中国に大きく負けていると思う。

また、⽇本の研究開発投資額は世界第3位であるが、ドイツ及び韓国との差額が2013年以降徐々に減少している。日本が止まっている間に他国は研究開発投資を進めている。

 

 

一方、GDP比の研究開発投資を見ると、日本は2010年くらいまでOECD国内では1位だったが、2019年には韓国の4.6%に比べ、日本は約3.2%と大きく差をつけられている。これは韓国が2000年以降、国を挙げて科学技術投資、研究開発投資を増やし、一方、日本がほとんど変わらなかったことが原因である。

日本も韓国並みの研究開発投資を行うことで時間はかかるが産業力はアップする。つまり研究開発投資を1.5倍にして韓国との競争にも打ち勝たなければらならない。

これは難しいことではない。政府の研究開発投資を1.5倍に大幅に増やし(約2兆円の支出増)、民間企業は蓄えた内部留保(2021年度、日本企業の内部留保は516兆円)を税制や補助金で科学技術及びイノベーションに投資してもらうようにするだけで実現できる。

 

 

また、研究開発の成果を事業に結びつけるための制度の整備も重要である。

下図は、コンサルティング会社TANAAKKの資料からの抜粋である。

 

 

日本の国内の研究開発投資は年間約20兆円、5年間で100兆円。

アメリカの国内研究開発投資は年間約60兆円、5年間で300兆円。

5年間で100兆円の研究開発投資にも関わらず日本はGDPを増やしていないが、アメリカは300兆円の研究開発投資で300兆円の経済成長を果たしている。

 

その大きな差は何か?

私は、グローバルに急成長する企業が生まれたかどうかの違いだと考える。

 

今、株式時価増額を全て合計するとGAFAMの価値はおよそ1000兆円となる(2022年7月時点)。なんと日本のGDPの約2倍となる。時価総額とは株式の価値、つまりGAFAMは1000兆円という価値を生み出し、その価値のうち多くの資金がイノベーションに流れ込んでいるのである。つまり、GAFAMに資金が集まり、それがアメリカの大きなイノベーションをけん引している。

 

また、アメリカは、世界トップの大学に世界から優秀な人材を集めている(日本でも沖縄科学技術大学大学院がひとつの成功事例として動き出している)。そして、労働力の流動性の高さ、教育の競争力の高さなどにより生産性を高めてきている。

 

特にイノベーションに対する資金投資の仕組みが発達している。新しい企業に資金を提供するベンチャーキャピタル投資家やエンジェル投資家が多く。また、

世界からイノベーションに資金を集められる力が強く、証券取引に上場する企業の価値(株価価値)は他国の取引所を遥かに凌駕している。証券取引所を通じて世界の資金が企業に提供されている。例えば、通常であれば政府が投資すべき未来の技術である核融合技術にも民間資金が投入され、宇宙開発も民間企業が担っている。

また、優秀な移民が多いため、最先端技術をベースとしたGAFAM(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン、マイクロソフト)のような企業に世界から多様な人材が集まっている。実際にGAFAMのトップ(CEO)の多くが米国外で生まれである。アップルを創ったスティーブ・ジョブズも移民の子どもであり、GAFAMはアメリカ人以外の多国籍の人財のちからで成長したとも言える。

日本にも同じようにイノベーションを駆動する企業を創らなければならない。

そのためには、研究開発を強化するとともに、規制などを見直しイノベーションが生まれる制度を政府が設計しなければならない。

私は日本の一人当たりのGDPはアメリカと同じレベル(現状の1.5倍)まで引き上げることはそれほど難しいことではないと考えている。

要は、「国としての意志」の問題である。