藤末も炎上に巻き込まれた「たわわの問題」憲法21条と刑法175条について、うぐいすリボンの開催した講演会などから得た知識を以下に整理してみます。

 

まず「たわわ広告の問題」については

日経新聞の「月曜日のたわわ新刊発売広告」に対して、UN Women(国連女性機関)が日経新聞に抗議した問題です。表現の自由と女性の権利という正義がぶつかる局面になったわけです。

 

東工大の治部准教授は、主な問題点を3つ指摘しています。(出典:『「月曜日のたわわ」全面広告を日経新聞が掲載。専門家が指摘する3つの問題点とは?』HAFFPOST、https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_624f8d37e4b066ecde03f5b7)

 

1つ目は、あらゆる属性の人が読む最大手の経済新聞に掲載されたことで、「見たくない人」にも情報が届いたことだ。

2つ目の問題は、広告掲載によって「異性愛者の男性が未成年の少女を性的な対象として搾取する」という「ステレオタイプ」(世間的固定概念)を肯定し、新聞社が「社会的なお墨付きを与えた」と見られることにある。

3つ目の問題点は、これまで「メディアと広告によってジェンダー平等を推進し有害なステレオタイプを撤廃するための世界的な取り組み」を国際機関とともに展開してきた日経新聞が、自ら「ジェンダーのステレオタイプを強化する」という矛盾に陥ってしまったことだ。

 

たわわを購入したことをツイートした藤末も炎上にまきこまれてしまいました。

国連機関が表現の自由を制限する方向の議論を行っていいのか?という疑問

一方で、藤末としては

本件には

国連の機関といったある意味で公権力が表現の自由を規制するかのような活動をすることの是非

という隠れた問題があるのではないかと考えました。

 

以上の点を憲法21条や刑法175条の観点から(藤末個人の思考の整理として)まとめてみます。

憲法21条からの視点

日本国憲法21条

1集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。

2検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。

 

この条文の価値としては「自己統治」があります。

「主権が国民に属する民主制国家は、その構成員である国民がおよそ一切の主義主張等を表明するとともにこれらの情報を相互に受領することができ、その中から自由な意思をもつて自己が正当と信ずるものを採用することにより多数意見が形成され、かかる過程を通じて国政が決定されることをその存立の基礎としている」*。北方ジャーナル事件最大判昭和61年6月11日民集第40巻4号872頁

 

また、表現の⾃由を保障した憲法21条は、情報の発信のみならず、伝達・流通、受領(知る権利、情報等を摂取する⾃由)も含め、情報流通過程全体にかかわる⾃由を保障していると解されてきました。

 

そして最も重要なことは「 憲法は公権力を拘束する」ことにあります。

憲法の保障する表現の自由は「公権力による表現の自由への介入を制約」するものであります。ただ、「営利的表現の⾃由」という考え方があります。広告などに関しては政治的な表現よりも自由の保障の程度は低いと解されています。

例えば、芦部信喜先生によると『広告など営利的表現も、国⺠が消費者として広告を通じてさまざまな情報を受け取ることの価値に鑑み、表現の⾃由として保障されると考えられている。もっとも、表現の⾃由の重点は⾃⼰統治の価値にあるので、営利的表現の⾃由の保障の程度は、政治的表現などの⾃由よりも低いと解されている。』となっています。(出典:『憲法[第7版]』201⾴(岩波書店、2019年))

「知る権利」を支える報道機関

一方、「報道機関の報道は、民主主義社会において、国民が国政に関与するにつき、重要な判断の資料を提供し、国民の『知る権利』に奉仕するものである。(出典:水谷瑛嗣郎「 国民の知る権利 の複線 ビッグデータ・ 時代に表面化する二つの 知る権利 」情報法制研究 )」との考え方があります。今回議論の対象になったものは報道そのものではありませんが、広告であれ報道機関の活動を問題視することは「国民の知る権利」を制限することにつながる可能性もあると思います。

国際法上の⼈権としての表現の⾃由

1948年に採択された世界人権宣言に法的拘束力はありませんが、第二次世界大戦を踏まえ、「人権尊重の理念」を定めた重要な文書と考えられています。そして、1966年に採択された自由権規約第19条(日本は1979年に批准)により、政府は、全ての個人の表現の自由を尊重する義務を有しています。

 

世界⼈権宣⾔19条

すべて⼈は、意⾒及び表現の⾃由に対する権利を有する。この権利は、⼲渉を受けることなく⾃⼰の意⾒をもつ⾃由並びにあらゆる⼿段により、また、国境を越えると否とにかかわりなく、情報及び思想を求め、受け、及び伝える⾃由を含む。

 

 国連⾃由権規約19条

すべての者は、⼲渉されることなく意⾒を持つ権利を有する。

2 すべての者は、表現の⾃由についての権利を有する。この権利には、⼝頭、⼿書き若しくは印刷、芸術の形態⼜は⾃ら選択する他の⽅法により、国境とのかかわりなく、あらゆる種類の情報及び考えを求め、受け及び伝える⾃由を含む。

3 2の権利の⾏使には、特別の義務及び責任を伴う。したがって、この権利の⾏使については、⼀定の制限を課すことができる。ただし、その制限は、法律によって定められ、かつ、次の⽬的のために必要とされるものに限る。

(a) 他の者の権利⼜は信⽤の尊重

(b) 国の安全、公の秩序⼜は公衆の健康若しくは道徳の保護

 

少なくとも国連女性機関は

〇国際機関も公的な機関であり、透明性が必要であり、どのような基準でクレームをしたかを示すべきではないか。

〇また、国際機関であるのであれば、それぞれの国の慣習や文化などに配慮すべきではないか。国により歴史的・宗教的背景は異なり、それを理解すべきではないか。

と藤末は考えます。

もっと議論が深める必要があります。

参考:⽇本経済新聞社出版広告規定GUIDE BOOK

⽇本経済新聞社出版広告規定GUIDE BOOK(2021年4⽉)は以下の通りです。

 

1.出版物の広告は原則として市販の書籍、雑誌等を対象とします。市販されていない出版物については本社が認めたものに限り掲載します。

2.宗教法⼈等の出版広告は本社が認めたものに限り掲載します。

3.出版広告に刑事事件等に関係した未成年者の⽒名、住所、学校名(職業)、本⼈と推知できる顔写真等は掲載できません。(少年法)。また、成⼈であっても、被疑者の⽒名、顔写真等の掲載は当該事件の性格、新聞報道の推移などを勘案のうえ掲載の可否を決定します。

4.次の事項に該当するものは掲載しません。

①選挙の事前運動に利⽤する等売名が主な⽬的であると判断されるもの。

②虚偽もしくは事実誤認が明らかな内容のもの。

③法規に抵触する恐れのある表現のもの、⼀般社会通念上罪悪であるとみなされるもを推奨・美化するもの。

④健康増進や病気の治癒等に関する書籍で、特定の健康⾷品等の購⼊⽬的または特定の病院への誘引⽬的が明らかであるもの。

⑤株式、先物取引その他投資に関する出版物で、投資の成果について誇⼤な表現をして投資意欲を著しくあおるもの。

⑥その他弊社が不適当としたもの

 

私は「たわわ」の広告は上記の規定には該当しないように思います。