2020年4月1日に施行された香川県のネット・ゲーム依存症対策条例を巡っては、香川県弁護士会が条例の廃止(特にゲームの利用時間を制限する18条2項の即時削除)を求めた会長声明を発表したり、香川県の高校生とその母親が県を相手取って違憲訴訟を起こそうとしたりするなど、現在もその波紋は大きく広がっています。

 

一方で、現在、厚生労働省を中心に、経済産業省や文部科学省も含めた関係省庁が連携して科学的根拠に基づく対策を講じようと、4月に実態調査を行っています。

 

また、業界団体も「4団体合同検討会」を設置し、さらには外部有識者によるゲーム障害調査研究会にゲーム障害の実態把握のための調査を委託し、科学的な調査研究に基づいて、効果的な対策を講じようとしています。

 

そのような状況の中、今後に備えて、諸外国におけるインターネットやゲームに関する規制についてまとめてみました。

 

1.インターネットの有害情報等に関する規制

アメリカ

・連邦レベルにおいては、児童オンラインプライバシー保護法(COPPA:ウェブサイトにおいて13歳未満の児童の個人情報を収集する場合、事前に親の許諾が必要)、児童インターネット保護法(CIPA:学校と図書館における児童ポルノ等有害情報へのアクセスを制限)、2006年アダム・ウォルシュ児童安全法(児童をだまして有害なサイトに誘い込むため、紛らわしい言葉や画像を載せることを犯罪とする)などによる規制がある。

・各州レベルにおける対応は様々であり、個人情報の保護、オンラインいじめへの退学等の措置、不適切な製品やサービス(たばこ、アルコール類、ポルノ等)について未成年の閲覧禁止、青少年への有害なコンテンツのインターネットを介した配給の禁止、プロバイダーのペアレンタルコントロール(親の介入)の提供義務付け等が州法によって定められている。

 

(出典)平成29年度アメリカ・韓国における青少年のインターネット環境整備状況等調査(平成30年3月内閣府)(26-35頁)

 

イギリス

・イギリスには青少年のインターネット利用を制限したり、プロバイダーに違法有害情報の削除の対応を義務づけたりする法律はない。基本的には業界の自主規制で情報の改善を図り、それで不十分な場合には法規制を採用するという方針を政府は示している。

・EU電子商取引法側面指令に定められている内容を国内法に適用した電子商取引指令の施行規則2002により、違法コンテンツの削除を行わない場合、プロバイダーの法的責任が問われることがあるが、その妥当性判断等についてはインターネット監視財団(IWF)が担っている。

・政府は有害情報については、IWFが十分にその役割を果たしており、基本的に業界の自主規制に任せるという立場を維持している。

・政府のインターネットに関する実態調査の報告書における提言を受け、イギリス青少年インターネット安全協議会(UKCCIS)が設立され、官民共同で業界の自主規制に関する協議など様々な活動が実施されている。

 

(出典)平成25年度諸外国における有害環境への法規制及び非行防止対策等に関する実態調査研究報告書(平成26年2月内閣府)(54-61頁)

 

フランス

・青少年のインターネット利用における危険に対する技術的な保護システムとして、主にフィルタリングを含むペアレンタルコントロールサービス、特定コンテンツ(テロ教唆・擁護、児童ポルノ)についてのブロッキング措置が取られている。

・フィルタリングを認める法的根拠として、国内法(「デジタル経済における信頼のための2004年6月21日法第2004−575号第6条I-1」)や、フィルタリングを推奨・義務化するEU法(「未成年者及び人間の尊厳の相当かつ有効な保護レベル達成を目的とする国内的枠組の促進による欧州視聴覚・情報サービス産業の競争力開発に関する1998年9月24日理事会勧告」、「主に児童・未成年者の保護領域における違法・有害コンテンツとの闘いによるインターネット及び新たなオンライン技術のより安全な使用の促進に関する共同体多年度行動計画を採択する1999年1月25日理事会・欧州議会決定」)がある。

・2004年に初等・中等教育機関に対するフィルタリングサービスの使用の義務化、2005年に親に対するペアレンタルコントロールソフトウェアのインターネット接続事業者による無償提供が定められた。

 

(出典)フランスにおける青少年のインターネット環境整備状況等調査報告書(令和2年3月内閣府)(第2部第二章、第四章)

 

ドイツ

・2002年に制定された「青少年メディア保護州際協定」では、有害メディア(ポルノ、暴力描写等)の閲覧制限を課している。

・2017年に制定された「SNSでの法執行を改善するための法律」では、SNS事業者に対し、特定の違法情報への苦情処理手続の策定、対応に関する報告書の作成・公開等を義務付けている。違反に対する過料は高額に及ぶ場合もあるとされる。

・「青少年保護法」では、青少年有害情報として、①残忍性を煽るもの、②暴力行為を誘発するもの、③犯罪を誘発するもの、④人種差別を誘発するもの、⑤それ自体を目的とした詳細な暴力描写、⑥私的制裁を安易にするもの、⑦不道徳性のあるもの、を規定している。

・また、法的に規定されてはいないが、連邦青少年有害メディア審査会から有害情報と指定されているものとして、人間の尊厳を傷つけるもの、国家社会主義(ナチス)の礼賛、ドラッグ使用の奨励などがある。

 

(出典)ドイツ・オーストラリアにおける青少年のインターネット環境整備状況等調査(平成31年3月内閣府)(9-14頁、34-40頁)

 

オーストラリア

・オーストラリアでは、eセーフティー監督官事務所がインターネットコンテンツの規制行政全般を所掌しており、違法及び有害なオンラインコンテンツは、「1992年放送サービス法」のオンライン・コンテンツ・スキームに基づき、苦情申立て制度を通じて規制が行われている。通報が寄せられたコンテンツは国家レイティングスキームに基づいて評価され、禁止コンテンツ等と判断された場合はプロバイダーに対する削除命令等がなされる。

・「2007年通信改正(コンテンツサービス)法」によりポルノ閲覧等に対するインターネットの規制を行っているほか、「2017年刑法典改正(未成年オンライン保護)法」により、インターネット等電気通信サービスを利用し16歳未満の青少年に対し危害等を加えるための準備・計画等を犯罪行為として規制している。

 

(出典)ドイツ・オーストラリアにおける青少年のインターネット環境整備状況等調査(平成31年3月内閣府)(61-65頁、89-101頁)

 

韓国

・「情報通信網の利用促進及び情報保護等に関する法律」は、青少年有害媒体物の表示、有害媒体物の広告禁止等を定めている。

・「青少年保護法」は、青少年保護委員会等により青少年有害媒体物と決定されたもの(わいせつなもの、暴虐性や犯罪衝動を引き起こしうるもの等)について、制作者等に対する青少年有害表示に準ずる表示の義務づけなど一定の規制をしている。

・インターネット上の情報の青少年有害媒体物については、放送・映画分野は放送通信審議委員会が、ゲームはゲーム管理委員会が審議を行っている。

・午前0時から午前6時まで16歳未満の青少年に対するインターネットゲームの接続を遮断するシャットダウン制度や、電気通信事業者に対する青少年有害媒体物等の遮断制度(スマート保安官制度)、放送通信審議委員会による有害サイト遮断制度(警告制度KCSCWarning)などがある。

 

(出典)平成29年度アメリカ・韓国における青少年のインターネット環境整備状況等調査(平成30年3月 内閣府)(79-86頁)

 

中国

・1999 年6 月、中共中央弁公庁は中国で初めてとなるインターネットの管理指針「中央宣伝部、中央対外宣伝弁公室関于加強国際互聯網絡新聞宣伝工作的意見」を公布した。その後も、インターネットの急速な普及にあわせて、中国政府は次々にインターネット時代に対応する規制を打ち出していった。

・例えばオンラインゲームに対する規制としては、2010年施行の「オンラインゲーム管理暫定弁法」により、未成年に対する課金の制限、未成年者のオンラインゲームのプレイ時間の制限などが定められている。また、オンラインゲーム全体に対する規制として、暴力的表現、カルト(邪教)、迷信、性的表現、賭博要素を含む表現を禁止している。

・中国政府は2019年11月、18歳未満の若者に対して平日にオンラインゲームをする時間を90分までとし、午後10時から翌朝8時まではゲームを禁止するなどの規制措置を発表した。

 

(出典)外務省調査月報「中国インターネット世論の内政・外交への影響」(2012)(21-22頁)

中国スマートフォン向けモバイルゲーム市場調査(2014年2月日本貿易振興機構(ジェトロ))(12-13頁)

朝日新聞GLOBE「未成年のオンラインゲーム、夜はダメ 規制に乗り出した中国」(2019.12.20)

 

 

 

2.ゲームに関する規制

2-1.レイティングシステム

コンピュータゲームの購入・貸与・鑑賞ができる年齢制限、及びその表現の規制のこと。日本においては、2002年のコンピュータエンターテインメントレーティング機構(Computer Entertainment Rating Organization:CERO)の設立以降、レイティング制度が導入されている。

レイティング制度の導入と審査については、各国の法令で義務付けられ、違反者に罰則が課せられる国(ドイツ)もあれば、業界団体の自主規制による国(アメリカ、日本)もある。

 

ヨーロッパ各国

ゲーム及びアプリケーションにおいて年齢別レイティングを行なっている国際団体として、「汎欧州ゲーム情報」(Pan European Games Information:PEGI)があり、欧州を中心に30か国以上がメンバーとなっている。ビデオゲームのパッケージに年齢制限、内容の表示を行っており、ラベルは、年齢別及びコンテンツ別に色・絵で明確に制限される年齢・内容が分かるようになっている。

 

(年齢別アイコン)

(コンテンツ内容を表示するアイコン)

(出典:JETRO)

 

ドイツ

ゲームのレイティング(年齢制限認証)が法令により義務付けられており、メディアの種類により管轄等が異なる。

〔①携帯メディア(Tragermedien)〕

(オーディオ・ビデオ、アナログ・デジタルの記録媒体(ハードディスク、CD-ROM、DVD、Blu-Ray)など物理的なキャリアがある媒体)

→ 青少年保護法(連邦法)を根拠とし、連邦家族、高齢者、女性、青少年省(連邦家族省)が管轄する。認可を受けた自主規制機関であるソフトウェア事前審査機構(USK)による年齢制限認証を受けることとされている。

〔②放送、テレメディア (Telemedien)〕

(インターネット(オンラインゲームなど)の物理的なキャリアがない媒体)

→ 青少年メディア保護州際協定(各州間の協定)を根拠とし、州メディア監督機関が管轄する。認可を受けた自主規制機関であるソフトウェア事前審査機構オンライン(USK.online)による年齢制限認証を受けるとされている。

 

アメリカ、カナダ

アメリカ及びカナダにおけるコンピュータゲームのレイティングなどの審査を行う団体として、「エンターテインメントソフトウェアレイティング委員会」(Entertainment Software Rating Board:ESRB)があり、テレビゲーム、アプリケーションなどのコンテンツについて、簡潔かつ客観的な評価情報を親たちに提供している。ESRBのレイティングの特徴として、コンテンツの想定対象を年齢層別に区切った分類基準に基づくレイティング・カテゴリーという分類方法が挙げられる。

(レイティング表示)

(出典:ESRBサイト)

 

 

韓国

ゲーム産業振興に関する法律に基づき、韓国において制作・配給されるコンピュータ・ビデオゲームの内容を事前審議し、消費者が正しく選択できるようにこれに等級を付与する文化体育観光部傘下の公共機関として、「ゲーム物管理委員会」がある。同委員会では、等級が分類されたゲーム物を管理して不法ゲーム物監視団を運営し、不法ゲーム物の営業を取り締まっている。

(職務)

◆ゲーム物の等級分類の決定

◆ゲーム物の青少年有害性及び射幸性の確認

◆等級分類を受けたゲーム物の制作・流通、又は正常な利用提供状況の確認・点検等、等級分類の事後管理

◆不法ゲーム物取締り業務の支援

◆政府通信網を通じて提供される不法ゲーム物等の是正勧告

 

2-2.ルートボックス規制

コンピュータゲームにおいてプレイヤーにゲーム内のアイテム等をランダムで付与する方式のことであり、日本では通称「ガチャ」と呼ばれる。ルートボックスは、ユーザーの射幸心を煽るギャンブル的要素が色濃い、課金システムと組み合わせれば実質的にギャンブルと同然であるとして、ここ数年、各国で規制強化を求める動きが見られている。

 

アメリカ

2019年、米共和党のジョシュ・ホーリー上院議員が子供向けゲームでの有料ルートボックスなどを禁じる法案を提出している。

 

オランダ

2018年、賭博法違反のゲームにルートボックスの見直しを指示するなど規制強化に動き始めている。

 

ベルギー

2018年、賭博委員会が一部ゲームのルートボックスを賭博の一種と指摘している。

 

(出典:内閣府「平成26年度アメリカ・イギリス・カナダ・オーストラリアにおける青少年のインターネット環境整備状況等調査」等)