微小プラスチック(MNPs)はプラごみやポリ袋などの分解産物です。飲料水などにもわずかに含まれているとされ、人体から検出されたとの報告もあります。しかしながら人体への影響の詳細は不明とされてきました。

「人の頸(首の)動脈にできた隆起を切除して調べたところ、6割弱に微小なプラスチックが含まれていた」

イタリア研究チームから最近発表された衝撃的内容。検出された人はされなかった人に比べ脳卒中などになるリスクが4倍以上になっていました。微小プラスチック(MNPs)は体内の他の部位にも広がり、炎症を起こしている可能性があるそうです。

 

Qian N, et al. Rapid single-particle chemical imaging of nanoplastics by SRS microscopy. Proc Natl Acad Sci U S A. 2024 Jan 16;121(3):e2300582121.(doi.org/10.1073/pnas.2300582121) 

 

【要旨】

頸動脈の隆起は動脈硬化の原因になるとされ、切除されるケースも多い。チームは、イタリア国内で、無症状の18~75歳の257人の頸動脈から切除された隆起を調査。58%にあたる150人から微小プラスチックが検出された。電子顕微鏡で見ると、免疫細胞内に微小プラスチックが取り込まれており、炎症を起こす物質がより多く出ていることも確認できた。

 

Marfella R, et al. Microplastics and Nanoplastics in Atheromas and Cardiovascular Events. N Engl J Med. 2024 Mar 7;390(10):900-910.(doi.org/10.1056/NEJMoa2309822)

 

これらの論文に対する岐阜大の下畑教授の寸評(ブログより)。

 

プラスチック(ポリエチレン,ポリ塩化ビニルなど)は化石燃料が主原料で,多くの有毒な化学添加剤を含んでいます.例として発がん性物質,神経毒性物質,内分泌かく乱物質であるビスフェノール類などがあります.プラスチック廃棄物は環境中に存在し,分解されてマイクロプラスチックやナノプラスチック粒子になります.前者は粒径1 µm~5 mm,後者は粒径1μm未満です.今年1月にPNSA誌に出た論文は,両者をあわせたマイクロ/ナノプラスチック(MNPs)を正確に測定できるようになったという報告で,ペットボトル1本に約2.4±1.3×105粒子(24万個!!)と推定され,その約90%がナノプラスチックであったそうです.ナノプラスチックはサイズが小さいため,人体に入りやすく,毒性が強いと考えられています.既報では大腸,胎盤,肝臓,脾臓,リンパ節組織など複数の組織で検出され,米国のデータから,プラスチック添加化学物質がほぼすべての米国人の体内に存在することも示唆されています.またその健康リスクは生産に携わる労働者の間で指摘されていました.
 

今回のNEJM論文はイタリア3施設からのもので,前方視的研究です.頸動脈の動脈硬化病変(プラーク)を外科的に切除する頸動脈内膜切除術を受けた312人のなんと150人(58%)の切除プラークからポリエチレンが検出され,プラーク1mg当たり21.7±24.5μgでした.31人の患者(12.1%)にはポリ塩化ビニルが検出されました.電子顕微鏡検査では,プラークのマクロファージ中に,ギザギザした異物が確認されました.

 

心血管系疾患の新たな危険因子として

MNPsへの暴露を真剣に考える必要があります。

 

また他の臓器へのリスクがないか、

どうすれば曝露を減らすことができるのかも重要な課題。

 

わが国では少子化や精神疾患増加が問題視されていますが、

MNPs暴露との因果関係が証明されるかもしれません。

 

論文結語には化石燃料からの脱却が不可欠との記述。

今さらですが、ペットボトル飲料を飲むのは控えようかと。