白描画の倉庫 | しょうかんのうだうだ

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仏絵師藤野正観(66)の備忘録・・・っといっても、ほとんどどこにも出かけないので、ふだん、ぐだぐだ思ったり考えていることを書き連ねることになるのは必至。


仏画工房 楽詩舎のネットショップとして『白描画の倉庫』という仏画の下絵を一般に頒布しようと1年前から下図をアップし続けている。
1年経った今、ようやく皆さんの視線を感じることができるようになってきた。
各ページのアクセス総数も多い日で1000を超えることも珍しくなくなってきた。

最近は多くの写仏手本、仏画の下絵とうたって稚拙な下絵集が世に蔓延していると聞く。

今まで、本業の仏画制作に明け暮れ横目で見ていたが、あくまでも『仏画』は仏さまの絵像であり。仏法を元に描いた絵図。描き手の自己満足の道具ではない。

本来は、いわゆる自己表現としてのアートではないのだが、巷に溢れた手引き書のおかげで、それはアートとして抵抗なく一般に受け入れられてしまったようだ。
所詮、アートなどという概念においては、「仏」のお姿を素材としか考えないのかもしれないが・・・。
しかし、その一方で本来の『真の仏のお姿』を求める人も多くなってきた。

東洋画の最も重要とする、線描から得られる慈悲の眼差し・・・。その精神、心の追求。

ちょっとやそっとでは描けない、表現できない。東洋人としての本来の美意識が目覚めてきたのかもしれない。
面相筆の先、つまり命毛一本、0.1mmの誤差で、たいそう表情が変わる。

既存の稚拙な下絵集も、ここに来て、日本人の線に対する美意識を開花させるきっかけになったのかもしれない。
写仏や、仏画を続けていると、その線の重要性に気づく人が多くなってきたということだろう。

そんな方が、今までこんな美しい白描画を見た事がないといって、注文してくれる。
おせじでもうれしいものだ。

「こんな素晴らしい下絵を、どうして公開されるのですか?下絵は仏画家にとって財産ではないのですか?」と、こんな質問を受けたことがある。

確かに、絵描きは下図は表に出したがらないのが普通だ。

私の場合、仕事に使用する下図は、薄い洋紙に描くので、5年もすれば、紙自体が朽ちる。
今のうちに、デジタル保存をしておこうと、コツコツ作業を始めたのが、この『白描画の倉庫』を始めるきっかけなのだが、作業をするうちに、このおびただしい下図で、60歳を前にした私自身がいったい今後どれだけ描けるのだろう・・・。といった疑問が沸いた。

我の工房には、二人の弟子と、お手伝いを願っている人が二人居る。いづれ彼等に下図を受け継いでもらうことになるのだが、私だけがわかるような雑に描いた下図では、このままのアナログ保存の状態では使いにくい。

ということで、実は、公開する下図は、A3サイズに収まる程度の下図に限定されるが、これから私の工房を巣立つ若い仏絵師に使いやすいように整理し、そして私自身が手直しをし、デジタル保存しておくことが最大の目的なのだ。

私の弟子をはじめ、仏画を勉強する方々が、これ等『白描画の倉庫』の下図(白描画)を元に絹本彩色をし、また新しい時代の『本格的な仏画』として、新しく世に生まれることを今から楽しみにしている。

その為には、今後も、完成度の高い下図を作り続けなければならない。
近い将来、これ等の白描画を元に、絹本着色仏画の展覧会ができたら・・・おもしろいかな。