私は、ABAがよいと思っている立場のものですが、
もし全世界がABAだけになったら?
それは、私的には、気持ち良くないです。
反対意見は、あった方が健全ですし、
批判があった方が、ABAがもっとよくなるでしょう。
ABAの何がよいのでしょうか。
エビデンスがある、と言われます。それは例えば、
●IQ(DQ)を伸ばします。
●コミュニケーション能力を高めます。
●不適切行動も、減る、ようです。
どれも素晴らしいです。
私は、
昨日までできなかったことが、ABAで教えたら、できるようになる
ABAは、これがよい、と思っています。
ABAは、身辺自立(日常生活スキル)を伸ばすことができます。
スプーンを使える、トイレで排尿する、靴を履く、といった日常生活スキルは、
本来、知能(IQ)とは別の方法で、評価されるべきものです。
(評価方法として、面接質問紙検査(Vineland-II)*1 *2 *3 がよく使われています。)
自閉症のお子さんは、日常生活スキルの習得が遅れることが多いです。*4
そんなこと、ABAで教えなくても、そのうちできるようになる、と思いますか?
下に一つ、データをお示しします:
10歳以上の自閉症児・者を対象にした、日本の調査です。(*5 より引用)
面接質問紙検査(Vineland-II)で、身辺自立(日常生活動作)を含めて、適応行動全般を調べています。
下の図で、赤の横直線が、標準値、です。
①②③④が自閉症で、①が高機能、②~④が知的障害を伴う(上から、軽度、中度、重度)です。
身辺自立は、残念ながら自閉症児は、10歳を過ぎても、標準値に届いていません。
身辺自立などの適応行動は、IQとは別のものですが、
IQの高さと、よく関係していることが分かります。
自閉症児の特徴として、
「家事」は比較的できますが、「地域生活」や「遊びと余暇」が弱み、と見て取れます。
Vineland-IIですが、 *3
単に「する(できる)」「しない(できない)」だけの評価ではありません。
大人の手助けなく、自分だけでできるか、というところを重視しています。
子どもが、歯磨き、などの行動を、
「手助けや頻繁な声掛け」(=プロンプト)なしで、習慣的に行えている場合を「2点」、
「時々」か、プロンプトありで行動できている場合が「1点」、
滅多にその行動をしない場合を「0点」、と評価します。
「自立度」を評価できる、よい検査だと思います。
次に、
自閉症児にABAをすれば、日常生活スキルは伸びる、というエビデンスを紹介します。
下の図で、メタ分析の結果をお示しします。 *6
小さくて見にくくてすみません。
上の図に、5本の「箱ひげ」があります。下4つを赤枠で囲みました。
5つのうち4つの論文で、中央線より右側、つまり
EIBI(ABA)のほうが、通常療育(TAU)よりも、日常生活スキルを伸ばした、
という結論になります。
ただその効果は、それほど目覚ましく大きなものではない、とも言えそうです。
自閉症児にABAをやると、どんなスキルが伸びるか、という
ブラジルの研究があります(2023年)。 *7
対象者は、3.8歳から10.8歳の自閉症児です。
子どもが自力で実行できるようになるスキルとして最も多かったのは「学業スキル」で、
次に、「社会スキル」と 「日常生活スキル」でした。
検討したスキルの中では、「注意力スキル」は、自力では、しない子どもが多かったです。つまり、例えば、
『補助なしで「止まれ」または「待て」の指示に従う』、は、16人中13人は、自力では実行しませんでした。
スキルによって、得手不得手があるのは、なんとなく分かります。
ABAをした子と、しなかった子の適応行動全般を、Vinelandで比較した研究もあります。
原口先生、神尾先生の日本の論文(2020年)です。 *8
この研究結果では、
ABAで、コミュニケーションは伸びましたが、日常生活スキルは伸びませんでした。
ABAで、日常生活スキルが伸びなかったのは、どうしてだと思いますか?
伸びているように見えるのに、Vinelandで調べると評価されないのは、
Vinelandが、「大人の手助けなしで」行動できるかを、重要視しているからだろうと私は思います。
ある程度できるようになったら、手助けや声掛けを少しづつ減らしていく、
(プロンプト・フェーディングといいます)
自立、を考えた時、保護者やABAの支援者には、ここを意識してほしいと思います。
昨日までできなかったことが、できるようになる、
それがABAのよいところだと、私は思っています。
とはいえ、ABAは魔法ではありません。
プロンプト・フェーディングをすれば、できるようになった行動が、またできなくなることも、あるかもしれません。
子どものスモールステップが待てる「やさしい目」が必要だと感じます。
それから、もう一つ、必要だなと最近よく思うのは、
「信頼」です。それは、
子どもさんへの信頼と、自分がしている子育てへの信頼です。
ABAを続けていけば、子どもは将来、幸せに生きていくことができる、
その信頼があれば、親は頑張れるはずです。
でも、そんなことは、じつは誰もきちんと証明してはいません。
だから私が、その研究を、国立病院機構ではじめることにしました。
自閉スペクトラム症小児へのABA早期療育と、数年後の予後の関係を明らかにする多施設共同前向き観察研究
ブルトーザーのように、お声掛けをしてまわり、
井上雅彦教授、山本淳一教授、渡部匡隆教授にも、お願いして、協力をいただけることになりました。
前向き研究ですから、
今から、子どもさん、保護者さんと出会って、成長を一緒に見ていくこと、
今からのABAを、やさしく、質の高い、子どもさんを将来、幸せにする療育にしていくこと、
皆様と一緒に、未来を作っていけることを、楽しみにしています。
*1. Vineland-II 適応行動尺度
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jscap/57/1/57_26/_pdf/-char/ja
*2.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jscap/57/1/57_29/_pdf/-char/ja
*3.
*4.
*5.
http://www.rehab.go.jp/application/files/4815/8469/5508/H26-.pdf
*6.
https://www.cochranelibrary.com/cdsr/doi/10.1002/14651858.CD009260.pub3/full
*7.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10169625/
*8.
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S1750946720300465