私が講演会で、なんどか紹介した論文(*1)に、

自閉症児がABAを受けるに値する10の理由」があります。

私が一番共鳴するのは、「理由2.親はいつか先立つから」です。

だからこそ、

将来のわが子の自立と幸せのために、自分が教えられることは教えたいと思う親心、です。

 

著者のWalsh先生は、哲学・神学がご専門のようで、

論文中のお写真から、自閉症のお子さんを持つお母さまと思われます。

 

 

ABA療育の何がいいのでしょうか。

 

まず、「エビデンスがある」と言われます。

自閉症児を、知的に高めます。

コミュニケーション能力も高めます。

不適切行動も、減らすようです。

 

世界中から、多数の論文が出ています。

知的能力、コミュニケーション能力と比べると、

不適切行動を減らすエビデンスを示す論文の数は、少なめです。 *2 *3

ABA療育は、子どもさんの「よい行動」を強化して増やすことが得意ですが、

自傷・他害や癇癪のような「不適切な行動」を減らすのは、

そう簡単ではないのだろう、と私は思います。

 

もう一つ、ABA療育のいいところは、

 

ABAで教えれば、今までできなかったことが、できるようになる

私は個人的に、これが一番いいと思っています。

自閉症のお子さんの多くは、「誰かを見て自然に学ぶ」ことが上手くないです。

それでも、

スモールステップで、時間はかかるかもしれませんが、

きちんと教えれば、けっこう、できるようになります。

声の出し方も、食器の使い方も、ズボンの履き方も、トイレでの排尿も、

そして、勉強も、

親は、ABAの専門家に、教え方を習えばいいのです。

ただ、方法を、一人一人の子どもにあわせることが必要です。

自閉症児を一括りにはできません。みんなそれぞれ違った特性があります。

 

エビデンス、ですが、

先ほどのWalsh先生の論文の最初に書いてありますが、

ダーウィンの進化論でさえ、米国人の4割も信じていません。

だからABA療育も、エビデンスがある、くらいのことでは、あまり人気がなくても仕方ないです。

 

 

ABA早期療育には、「伝統的なデスクセラピー」と「ナチュラルな方法」がある。

 

 

藤坂龍司先生の「ABA入門」の改訂版74ページの図です。

私が知る限り、この図が一番、分かりやすいです。

(私のブログの過去記事(1)もご参照ください)

 

DTTが大人主導の、伝統的なデスクセラピー、

NETがナチュラルな方法です。

NETの代表的なものに、ケーゲルのPRTがあります。

 

PRTについて

 

PRTは、ABA早期療育技法のひとつです。

伝統的なデスクセラピー(DTT)と比較して、

子どものモチベーションを重視した「ナチュラルな方法」として知られます。

日本発祥の「フリー・オペラント法」も、ほぼ同じ考え方になると思います。

 

DTTは、まず子どもを「椅子に誘導」し、

同じものを一緒にする「マッチング課題」からはじめます。

子どもが着座や課題を嫌がって、途中で逃げ出そうとするかもしれません。

子どもが嫌がる様子を見たい親はいません。

でも親は、子どもを伸ばすために、気丈に頑張ります。

PRTは、着席すら、必須ではありません。

子どもは楽しそうですが、

うまく療育しないと、ただ好きな遊びをするだけで、終わってしまいます。

 

自閉症児の早期療育では、DTTとPRTはどちらがよいか、という議論もありました。

「知的に高める」エビデンスは、DTTにはたくさんあり、

「コミュニケーションを高める」エビデンスは、DTTにも、PRTにも、たくさんあります。

どちらもABAです。

最近では、DTTやPRTを組み合わせて行う、とか、親がどちらの方法にするか選ぶ、とか、

そういう時代になってきています。 *4 *5

現代のDTTは、最近のPRTの考え方を受けて、進歩し、洗練されてきています。 

*6

もちろん、不適切な行動に対して、嫌悪刺激(暴言や体罰など)を用いることは、現代のDTTにはありません。 *6

 

 

「不適切な行動」とは何か? 減らさないといけないのか?

 

減らすべき「不適切な行動」とは、

自傷または他害のほかには、たとえば、

「道路への急な飛び出し」とか、「川を見ると喜んで飛び込もうとする」とか、

そのようなレベルのことです。

「手をひらひらさせる」、

これ減らさないといけませんか?

「人と話すときに目線を合わせない」、「唾を吐く」、「鼻をほじくる」、「特定の食べ物へのこだわり」

頻度や程度にもよるでしょうが、減らすべき行動かどうか、よく考えた方が良いです。

このようなことを矯正しようとするのは、とくに、神経多様性(neurodiversity)の考え方からは批判されるでしょう。 *6

自閉症の人は、このような行動で、心の安定を保っている可能性があるからです。

こういう人がいてもよい、否定されるべきではない。

でももしかしたら、このような、「小さな不適切行動」のために、

お友達ができにくかったり、

親はわが子に、心を傷めているかもしれません。

私はできることなら、こうした親の気持ちも、救ってあげたいと思います。

 

神経多様性の考え方は、とくに伝統的なABA療育とは、融和的でない、ようです。

指示に従うという意味での「コンプライアンス」という言葉も、

これからあまり使わない方が無難です。

ナチュラルなABAは、そのような背景もあって、広がってきたのかもしれません。

*6

 

ただし、「唾を相手に吐きかける」となると、他害になるので、直前の状況を理解して、減らしていく対応が良いでしょう。

ABC分析が基本ですね。

癇癪も、メルトダウンかどうかの判断も含めて、直前の状況をよく理解することがまず大切です。本人も周囲も、そうとうに疲弊しますので、減らしていく対応を考えてよいと思います。

 

 

「不適切な行動」には、どう支援するのか

 

先ほども書きましたが、

ABA療育は、行動を「減らす」よりも、「増やす」ことのほうが得意です。

自傷・他害や癇癪のような「不適切な行動」を減らすのは、

そう簡単ではありません。

もちろん、「不適切な行動」を減らすための、支援方法の提案はありますが、

私が好きなのは、「適切な行動を増やすことをまず考えればよい」という考え方です。

「適切な行動を増やせば、不適切な行動は減る」と考えます。

山本淳一先生のPDFファイル(*7

6ページの、ストリングス・モデルの図をご覧ください。

チャーミングな図です。

 

 

自閉症児が、不適切な行動をしてしまうのはなぜか

 

定型発達の子どもさんの場合、幼児でも、

親が「危ないからダメだよ」といえば、しません。

自閉症児の場合は、しばしば、年長になって、行動範囲が広くなる頃でも、

「いけないこと」をします。

「ルールが理解できないから」(知的に理解できるレベルではないから) *8

そうでしょうか?

私は、そこは疑っています。

ダメだということを理解していて、それでもやる子どもがいるからです。

「ダメだと言われるとなおさらやる」自閉症児がいます。

 

自閉症児は、待ったり、止まったりせず、

より反応的(衝動的)に行動する(行動を制御できない、または制御しない)

やはりそういうことがあるようです。 *9

 

 

論文を一つ、ご紹介します。  *10

自閉症児の特性として、「待てない」ということがあり、

それは、知的能力とは関係ない、という内容です。

 

●6~7歳の、ASD児21名と、定型発達児21名を比較検討した。

すべての対象児のIQは85以上で、両群に差はなかったが、

両群とも、100以上のIQの子どもを含み、IQの個人差は大きかった。

●15分待てれば大きなクッキー、15分待てなければ小さなクッキーをあげると、

事前に説明され、すべての児が理解した。

結果: 平均待ち時間は、ASD群で11分9秒、定型群で14分45秒。

●15分待てたのは、ASD群で57.1%、定型群で90.5%。

●ASD群の個人差を見ると、15分待てた57.1%と、15分待てなかった約40%の児の間に、知的な差はなかった。

結論: ASD児では、たとえ知能障害がなくとも、自制心が低下している場合がある。それはきっと、待つ、よりも、反応的/衝動的に行動する(じっとしたままではいない)、という特性のためなのでしょう。

 

知的に高い自閉症児の不適切行動に、罰を与えたり、強く叱ったりしても、

それでやめずに、逆に反応して、衝動的に、同じ行動をする場合もあるでしょう。

また、ASD児でも、15分待てる子も、少なからずいるわけです。

支援の仕方は、同じにはなりませんね。

個別のアセスメントを大切にしたいです。

 

 

 

さいごに。

ここまで読んでくださった方に、耳よりな情報です。

 

 

新潟病院で、BECの上村裕章先生のZOOM講演会を企画しました。

 

BECのWEBサイトを見ると、 *11

・ABAセラピー(DTT+PRT+VBの混合型セラピー)

こんなこともされておられます。

 

ASDの療育は、総力を結集して行なうのがよいと思います。

一人一人の「よい行動」を、小さなものでも良いから、いくつも見つけて、

それを増やしていく方法を、取り入れたいです。

なんでもかんでも取り入れる、というのとは違います。

自分が納得できたものは、取り入れて、組み合わせてよいと思います。

それぞれの療育の良いところを学び、

いつでも新しい内容に更新、成長していくのがよいと思います。

 

 

 

 

 

上村先生は、子どもたちに愛される「ヒロ先生」として、

笑顔あふれる楽しい療育で、人気・実績とも絶大です。

支援者向けには「上村塾」を開講され、多くの塾生を育成されています。

聴講を希望される方は、以下のお問い合わせフォームから、

講演前日までに、私までご連絡ください。

定員になり次第、締め切ります。

 

 

 

 

 

 

*1.

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3196209/

 

*2.

https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S1750946718300485

 

*3.

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6494600/

 

*4.

 

*5.

竹島浩司先生が主催する「エルチェ」さんのページです。

VB、DTT、PRTなどを組み合わせて使う、と記載があります

 

*6.

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9508016/

 

*7.

https://edo-hssc.jp/wordpress/wp-content/uploads/2020/12/20%E6%B1%9F%E6%88%B8%E5%B7%9D%E4%BF%9D%E8%AD%B7%E8%80%85%E7%A0%94%E4%BF%AE1128.pdf

 

*8.

 

*9.

 

*10.

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4116476/

 

*11.