長いので、記事を2回に分けます。

今回記事は、その1(1-3まで)とします。

 

その1

1.ドパミンについて

2.「注意、集中」のためには、ドパミンが「ほどよく」働くことが大切

3.ADHDの症状の重点は「注意、集中」

その2

4.ADHDとASDはどう違うのか

5.ADHDを合併したASDの特徴

 

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まえがき

 

私の学生時代ですが、

ヘッドフォンで音楽を聴く「ながら勉強」をしていました。

ハードロック、とかです(笑)

その方が、勉強が進みました。

(そういう人もいる、という話です)

私の脳で、ドパミン分泌が、ほどよく増えたのかもしれません。 

 

1.ドパミンについて

 

まず、ドパミンについて書きます。

ドパミンは、「4つの幸せホルモン」のひとつです。 *1

 

 

ドパミン: 「報酬ホルモン」

オキシトシン:「愛情ホルモン」

セロトニン: 「気分安定ホルモン」

エンドルフィン: 「鎮痛ホルモン」

 

報酬は、たとえば、「お腹がすいている人にとって、おいしい食べ物」がある。

しかし、お腹がいっぱいな人にとって食べ物は報酬ではない。

また、人それぞれ好みがバラバラである。

つまり報酬であるか否かは、脳の状態に依存し、また、主観的な快体験を起こすかどうかで決まる

(Wikipedia 「報酬系」より)。

注. 報酬は、応用行動分析学の「強化子(好子)」に似ていますね。

強化子というには、その報酬が、行動を増やすものであることが必要です。

 

 

ドパミンは、別名「快感ホルモン」とも呼ばれます。

(ただし、ランナーズハイは、ドパミンよりも、エンドルフィンやカンナビノイドの作用がよく言われます。)

ドパミンは、楽しいことをしている時、目標を達成したとき、褒められたときなどに分泌されます。

また、食事や水分摂取、生存競争、など、生命保持のための活動時に分泌され、本人に満足感が得られるようになっています。 *2

 

脳内のドパミン経路は、いくつか知られていますが、

報酬系の中心は、下図の、濃いめの水色部分です  

(中脳の腹側被蓋野の神経細胞から、線条体の側坐核の神経細胞に、ドパミンが伝えられる経路です。) *3

 

沖縄科学技術大学院大学のページより 一部改変*3

 

 

 

音楽も、脳内ドパミンを増加させる快刺激の一つです。 *4

音楽は、食事とは違って、生存とは直接の関連性が気づかれにくいものですが、

中脳からのドパミン分泌を刺激するのは、同じです。

ヒトの脳は、なぜ音楽を聴くと快感を感じるのでしょうか。

動物がより複雑になるにつれて、生存を成功させるためには追加の要素が重要になります。

たとえば、人間社会では、ある程度のお金を持っていれば、生き残ることができると予測できます。

お金を得るということは非常に強化されており(highly reinforcing)、

中脳辺縁系線条体領域が関与していることも証明されています。 *4

お金も、持っていればいいことがある(生存を成功させる)と学んだことで、快刺激になっています。

音楽は、交感神経系の活動を高め、聴けばよいことがある(生存を成功させる)と学んだことで、快刺激になる、という研究があります。 *4

「好きな音楽を聴くと、人生と向き合う勇気がもらえる」ということです。

 

 

2.「注意、集中」のためには、ドパミンが「ほどよく」働くことが大切

 

ドパミンの増加は、集中力を高め、学習などの課題の継続に役立つ場合があります。  *5

「音楽を聴きながら勉強する」タイプの人は、こうなのかもしれないと思います。

 

(ドパミンだけですべて説明できるわけではありませんが)

ドパミンが不十分だと、気力がわかず、集中できず、イライラするかもしれません。

ドパミンが(適度に)増えれば、集中力が高まりますが、

増えすぎてしまうと、依存症や中毒になったり、

極端な場合は、幻覚や妄想の原因になりえます。(感情の起伏が激しくなるかもしれません) *6

 

( *6より)

 

ドパミンは、神経細胞から次の神経細胞へ、情報を伝える働きをしています。

図の左側の細胞から放出されたドパミンの一部は、再吸収されてもとの細胞にもどります。

神経細胞は、この再吸収の程度を増やしたり、減らしたりして、

次の細胞への情報伝達の量が「ほどよく」なるように、調節しているのでしょう。 *7

 

さて。ADHDでは、

この、ドパミンの情報伝達が、不十分、と考えられています。

つまり、再吸収されるドパミンが多く、次の細胞に情報が伝わらない、ということです。  *8

そのために、集中できない、不注意症状が出ます

 

ADHD治療薬であるコンサータは、再吸収を抑えて、

細胞と細胞の間のドパミンを増やして(下の図の水色の空間部分です)

次の細胞に情報が多く伝わるように働きます。 *9

 

 

( *9より、一部追記)

 

 

 

 

3.ADHDの症状の重点は「注意、集中」

 

小児科医の立場としては、

落ち着きがない、多動、のお子さんの初診時に、

ADHDなのか、ASDなのか、発達障害(神経発達症)ではないのか、

診断はすぐにはできません。

ADHDとASDは、よく似ていることがあり、しばしばその症状を、共有しています。

 

 

ADHDとは、なんでしょうか。

たいていのテキストには、

実行機能の障害、とか、

多動、衝動性、不注意、の3つが主要症状、とか、書かれています。

結局、ADHDの本質は何でしょうか。

 

小児のADHDでは、成長に伴って、

多動の症状は目立たなくなり、不注意の症状が、より目立つようになります。  *10

幼いADHD児にも「不注意」はあるのですが、測定が難しく(気づかれにくく)、分かりにくいです。  *10

実際、小児期のADHDの多動の程度が、青年期の不注意の増加を予測する、という報告もあります。 *10 *11

 

歴史的にも、1980年代以降ですが、

ADHDの問題点が、「多動・衝動性」から、「不注意」に、重点が変化しています。*12 *13

幼い子のADHDは多動の様子や程度で見ていくしかなかったりするのですが、

「多動」だけでは、ただ元気あふれるお子さんと何が違うの? ということになります。

「多動」よりも、「不注意」「集中しにくい」といったことで、本人が困っていないかという視線で、

相手を見ることが(医師には)大切と思います。

 

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「集中できない」とは逆の現象で、

ADHDの方によく見られる「過集中(hyperfocus)」

これはどういうことでしょうか。

ドーパミン不十分のため、刺激的で楽しい活動を求めるようになり、それで脳内のドーパミンが増加すると、

結果として、その後、楽しくない活動に戻れなくなる、ということのようです。 *14

 

ADHD の子どもが過集中モードになると、他のことを考えることができなくなり、

目の前のことにすべての注意をそらすようになります。

このような子どもたちは、たとえば、すぐに結果が得られるような、ビデオゲームをプレイするときに

非常に集中した行動を示します。

集中しすぎて、名前を呼ばれても聞こえないこともあります。  *15

ADHDのお子さんがゲームに依存しやすいことを逆手にとって、

ビデオゲームをADHD治療に使おうという研究もはじまっています。 *16

(私のフォロワーさんの「ごう」さんに、ずっと以前に教えていただきました)

 

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「集中できない」ほうの話に戻ります。

 

「Mind Wandering、マインド・ワンダリング: 心の徘徊」って、聞かれたことがありますか?

誰にでもあることです。

毎日の思考時間の最大 50% を占めるようです。  *17

「昼食中だけど、午後のプレゼンの内容を頭のなかで準備しておく」みたいな、「意図的な、マインド・ワンダリング」

「講義を聴講している間に、つい、友達のことを考えてしまう」みたいな、「自発的な、マインド・ワンダリング」

この2つのうち、ADHDで多いのが、「自発的なマインド・ワンダリング」です。

ADHD の精神状態の特徴的な説明には、絶え間ない精神活動、常に動き続ける思考、または常に思考でいっぱいの心が含まれます。思考は制御されていないものとして経験され、複数の思考が同時に発生します。もう 1 つの一般的な説明は、ある事柄から別の事柄へと飛び回り、異なるアイデアの間を飛び回る短命な思考についてです。 *18

これ、私のこと?と思った方もおられるかもしれません。

常に動き続ける思考

なんと自由で素晴らしいことだろう、とも思いますし、

なんと忙しい頭の中なのだろう、とも思います。

 

ADHDを治療するかどうかは、

それが「障害」レベルなのか、本人がどのくらい困っているか、

ということによるだろうと思います。

 

ADHDも、スペクトラムと考えることができると言われています。 *19

程度の違いなのです。

DSM-5の診断基準に基づいて、その重症度が特定されます。

(ADHDの重症度が、重度、であれば、著しい障害ということになります) *20

 

以下、次回記事に続きます。

 

 

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*1.

 

 

*2.

 

*3.

 

 

 

*4.

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3690607/#r75

 

*5.

 

*6.

https://www.ncnp.go.jp/nimh/chiiki/documents/kazokushinrikyoikuhen.pdf

 

*7.

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3831354/

 

*8.

https://niimi-c.repo.nii.ac.jp/record/1253/files/41%E5%8F%B702.pdf

 

*9.

 

*10.

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3565715/

 

*11.

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4747050/

 

*12. (この本の6ページです)

 

*13. (この本の18ページです)

 

*14.

https://www.choosingtherapy.com/hyperfocus/

 

*15.

 

 

*16.

 

*17.

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6525148/

 

*18.

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6429624/

 

*19.

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5292042/

 

*20.

https://www.ncnp.go.jp/nimh/pdf/H29_dd_3.pdf

(スライド番号7-10)