先日、m3のインタビューを受けました。

第2回(後編)を、ご紹介いたします。

 

 

 

※ なお、転載は可能ですが、出典がm3と明示してくださいとのことです。

 

 

 

――藤中先生の経歴について教えてください。

 新潟県で生まれ育って、新潟大学医学部を卒業しました。学生実習の際に小児科医になることを決めてその道に進みましたが、いざ臨床に入ってみると、治療を受ける本人であるお子さんよりもその親に向き合って説明することや、親の意向で治療方針を変更するようなことが多くありました。そういったことにも今であれば柔軟に対応できると思いますが、当時は非常にもどかしく感じました。それで臨床より専門的な知識がもっと欲しい、という気持ちが強くなり、大学院に進んで小児腎臓の病理学について研究しました。大学院を出た後は、研究者のマインド、例えば先行研究については尊重しつつ、新しくもっといい方法はないかということを常に考えながら臨床にあたるようになったと思います。

 もう一つ、小児科医としては、「お子さんや親を怒らない」ということをずっと基本にやってきました。お子さんや親に寄り添い、希望がなるべくかなうよう努力しています。病気が治った後もお子さんと親に家庭で仲良くやってもらえるように、ご家族単位で診ているという思いで、一緒に考えながら診療することを心がけてやってきたつもりです。

 

――国立病院機構新潟病院小児科の診療体制について教えてください。

 小児科医の常勤医師が5人います。他に非常勤の医師もいますので、ある程度のマンパワーはあります。私が研究していた小児腎臓や、また小児神経学の分野に関しては、新潟県のリーダー的な存在です。小児腎臓でいえばネフローゼ、小児神経だとてんかんや筋ジストロフィーといった、療育も医療的ケアも必要な慢性疾患のお子さんが多く通院、入院しています。外来では自閉症やADHDといった発達障害のお子さんの受診も多いです。

 当院は国立病院機構ということもあり、政策医療を行っていて、重症心身障害児の病棟が2つあり、その2病棟に常時80人弱、入院患者がいて、小児科医が診療を担当しています。NICUを退所した後に自宅で生活できるようになるまでのお子さんとご家庭を支えるpost-NICUの病床もあります。当院のある柏崎市は人口8万人弱のそう大きくない市で、総合病院は当院のほかに柏崎総合医療センターがもう1つあるだけで、小児科の診療所も2カ所しかありません。ですから当院は慢性疾患のお子さんを診る一方で、感冒をはじめ、発熱外来や予防接種といった日常的な臨床も行っています。

 また、柏崎市の子どもの発達支援課や、幼稚園や学校の先生と合同カンファレンスを行うといった連携をとっています。大都市に比べればみんなで1人のお子さんを見ていくための連携を作りやすい状況です。可能であれば柏崎市から新潟県全般まで、連携が広がっていければと考えています。

 

――ABAリハ外来やペアレント・サポート・プログラムの反響はいかがですか。

 ABAリハ外来は開設して1年程度ですので、お子さんが知的にどれくらい伸びたかという評価はまだ完全にまとまっていません。ただABA療育においては、最初から目標を高く持つのではなく、子どもさんに段階を踏んで一歩一歩教えていく「スモールステップ」を大切にしています。最初は、動き回るだけで課題をこなすどころではなかったお子さんが、指図すると椅子に座ってくれるようになり、保護者の方からは、親が子どもにどう教えたらよいか少しずつ分かってきた、という評価を多くいただいています。お子さんの行動がよくなれば、親の育児ストレスも軽くなるということだと考えています。

 ペアレント・サポート・プログラムは、プログラム後のアンケートは概ね好評で、「非常に良かった」と言ってもらうこともあります。最初は皆さん緊張していますが、だんだん表情も緩んできて、最後には結構個人的な話をしてくださる方も多いです。後日プログラムのフォローアップも行うのですが、それに欠席する方はほとんどいないですね。

 

――今後の課題と展望を教えてください。

 自閉症児の療育は、やはりお子さん一人一人違うので、どういう方法がいいのか迷うところかと思います。それはABA療育の中でも、どういった種類の療育がいいのか、ということもあるかもしれませんし、あるいはABA療育とも違う療育方法、感覚統合療法のような方法が合うお子さんもいるかもしれません。ですからその見極めが重要です。私個人としては、まずは基本的なABA療育からはじめて、経過を見てそれぞれの方法を個人に合わせてアレンジしていくのがよいのではないかと思っています。ただ、日本全体の現状は、療育する立場の皆さんにもそれぞれ考えがあり、なかなか共通の認識ができていないと感じます。もう少し体系的な療育の進め方が確立できればよいと考えています。

 また、ABAにもご理解がある、実績豊富な児童精神科医の神尾陽子先生(神尾陽子クリニック院長、東京都中央区)に、2023年5月より当院で月に1回発達支援特別外来を始めていただいています。発達に支援が必要なお子さんのメンタルケアだけでなく、私たちが行っているABA療育や、ペアレント・サポート・プログラムに関しても、ご意見をいただきながら、充実させていくことを考えています。

 

◆藤中 秀彦(ふじなか・ひでひこ)氏

1989年新潟大学医学部卒業後、1997年同大学院修了。国立病院機構新潟病院臨床研究部長(小児科医)。日本小児科学会専門医・指導医、日本腎臓学会専門医・指導医、評議員、臨床遺伝専門医、日本遺伝子診療学会ジェネティックエキスパート。