クリスマスシーズンは、多くの家族にとって、平和と愛の期間です。
しかし、自閉症者と家族にとっては、まったく違う話になりえます。
「クリスマスは嫌いだ」 自閉症児家族では、しばしば聞かれる言葉です。 *1
感覚過敏の強い子どもさんにとっては、キラキラした装飾や、楽しそうな音楽が、不快な刺激になるかもしれません。
また、こだわりの強い子どもさんは、クリスマスよりも、いつものルーチンの方が安心で楽しいかもしれません。
「パーティー」のような社会的交流は、嫌かもしれません。
クリスマスに限らず、
子どもにとって、世界は、自閉症と定型発達で、違っているかもしれません。
自閉症児を体験するという、VR動画が、WEB上にもありますが、
どうやって作るのかな?と思っています。
その作成のためには、本人や親への聞き取り(主観的調査)だけではなく、
他者による研究(客観的調査)成果も、合わせることが必要と、私は思います。
研究成果を、いくつかご紹介します:
視覚について
① 自閉症者は「木は見えるが森は見えない」、つまり、全体的な認識よりも、細部を認識する。 *2
② 自閉症者は、そこに配置されたコンテンツに関係なく、画像の中心に強く惹かれることが判明した。
注視点の数は、少ない傾向があった。
また、顔よりも、色やコントラストで目立つ物体に視線を集中させる傾向があった。 *3 *4 *5
上から(A)テレビ、(B)木と動物、(H)選手と審判、
3枚とも、
ASD者では、写真の中央をよく見ています。
対照者では、一点集中ではなく(A)、動物の顔あたりを注視している(B)。
ASD者は、写真の中央あたりをよく見ていて、選手の顔よりも、審判の後ろ頭をよく見ているのが、興味深いです(H)。
聴覚について
① 自閉症のリスクの高い乳児は、話し声よりも、コンピューターで生成された音を聞くことを好むことが判明した。 *5 *6
この論文(*6)では、自閉症と既に診断された兄弟・姉妹が上にいる、乳児を調べているのです。
話し声に興味がないのではなく、例えばメディアの音に、より強く惹かれる可能性がある、と討論しています。
② 自閉症者では、聴覚過敏とミソフォニア(特定の音が耐えられない)が、よく見られます。 *7
視覚、聴覚などの感覚の統合について
混雑した空港では […] 空港の周囲の騒音を遮断しながら、同時に電話を聞くことはできません。
私の聴力は正常ですが、空港にある聴覚障害者用の特別な増幅電話を使用することを好みます。
[ テンプル・グランディンさんの論文の引用です] *8 *9
自閉症者は、「曖昧で膨大な情報から、行動の目的に応じた情報の選択を行う」ことが得意ではない、と言われます。
金沢大学の三邉教授によれば(*10)、
「曖昧で膨大な情報から、行動の目的に応じた情報の選択を行う」認知様式は、トップダウン処理と言われ、
定型発達の方が自然に行える認知方式で、
脳内では、前頭前野と呼ばれる部位が関与します。
自閉症者の認知様式はトップダウン処理ではなく、ボトムアップ処理であると言われています。
ボトムアップ処理は「一つ一つの情報から全体を理解する」認知様式で、主に脳の後方部(後頭葉や側頭葉、頭頂葉)が関与します。
母親に「お風呂のお湯を見てきて」と言われました。
自閉症児は、お風呂のお湯を観察して戻ってきました。
「お風呂」「お湯」「見る」という一つ一つの情報の、ボトムアップ処理認知が行われ、その背景にある「湯加減を調節する」という真意は理解できなかったのです。
しかし、
自閉症児のボトムアップ処理の認知様式は、明確な規則性のある状況において、
時として、優れた力を発揮することがあります。 *10
自閉症者の70%以上が、記憶力、視空間能力、計算、絵を描くこと、または音楽において、特定の分野の特別なスキルを持っていると言われます。 *11
特別な興味や能力を特定し、育むことは、自閉症の方の自尊心、交流や感謝の機会、雇用の選択肢を増やすことに繋がります。 *11
さて、このような研究成果を頭において、あらためてVR動画を検索してみると、
例えば、分かりやすいものとして、このようなものがあります ↓
① みんなの話し声が同時に聞こえる
② シングルフォーカス 一点に集中する
③ 蛍光灯の光と音が気になる
このyoutube動画についたコメントも、合わせてお楽しみください。
科学的に正しい、と思われる内容を盛り込んでVRを作っても、
すべての自閉症者にあてはまるわけではないのだろうと思います。
枠にはめるような理解ではなく、
一人一人が違うことを忘れずに、相手に謙虚でいたいと思っています。
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*1.
*2.
*3.
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0896627315008314
*4.
*5.
*6.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3648614/
*7.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8544234/
*8.
https://www.academia.edu/download/37162936/1984-v13n03-p144.pdf
*9.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5206282/
*10.
https://kodomokokoro.w3.kanazawa-u.ac.jp/doc/20180616ihou.pdf
とても面白い論文です(日本語)。
*11.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6127767/
勇気が出る論文と思います(英語)。