先日、m3のインタビューを受けました。

m3というのは、会員限定の医療従事者向けポータルサイトです。

 

 

残念ながら、登録会員でないと、このサイトを見ることができません。

 

みなさまにご覧いただきたいので、以下に紹介いたします。

近日中に、第2回(後編)が公開されますので、またご紹介させていただきます。

 

 

※ なお、転載は可能ですが、出典がm3と明示してくださいとのことです。

 

 

 

――藤中先生がABAに出合った経緯を教えてください。

 私の長男が自閉症です。現在6歳ですが、2歳半ぐらいのときに、言葉の発達の遅れやこだわりのある行動、意思疎通がうまくいかない、といった症状がみられ、私自身で診断をしました。国立病院機構新潟病院小児科には自閉症など発達障害のお子さんの外来受診が多く、さまざまな療育も行っており、まずは当院の作業療法士に息子の療育リハビリをお願いしました。

 その段階で私も自閉症児の療育について調べて、じつは妻に教えてもらってABA療育を知りました。アメリカなどの一部の州では公費負担で行われていて、自閉症児を知的に伸ばすというエビデンスもあり、世界標準ともいえる療育方法です。私は恥ずかしながら全く知らなかったんですが、当院にも知っている人はほとんどいませんでした。自分自身の興味もあり、また、国立病院機構の病院での臨床研究の一環として、この機会にみんなでABAを知ろうということになりました。最初は、私が自分の息子にABA療育をしている動画をZoomで院内向けに配信して、ABAをやってみたい、と希望するリハビリスタッフを募るところから始めて、また、ペアレント・サポート・プログラムを行い、その後ABAリハ外来を開設するに至りました。

 

――ABAの内容について教えてください。

 応用行動分析(Applied Behavior Analysis)という学問の名前の頭文字をとってABAといいます。基本原理をものすごく簡単に言えば、お子さんがしてほしい行動をした時に、褒めるなど褒美を与えると、その行動が増えます。一方で、してほしくないことをした後に、反応しないなど褒美を与えないことで、その行動が減る。例えば、「勉強したお子さんがお母さんにすごく褒めてもらえれば、また勉強するようになるだろう」ということです。

 ABA療育とは、この考え方を使ったお子さんへの早期療育を指します。例えば言葉の発達がないお子さんが、何らかの音声を発したときに、お子さんが喜ぶことをしてあげます。お菓子をあげてもいいですし、好きなおもちゃで遊ばせてもいいし、抱っこしてあげてもいい。そういったお子さんが喜ぶご褒美をあげれば、また音声を自分から発する行動が増えるだろう、ということを期待して行う療育方法です。

 1980年代にアメリカのロバースという学者が、準ランダム化比較試験で、ABA療育をした群としない群で自閉症の平均のIQに差が出るということを実証しました。ロバースはまた『ザ・ミーブック』というABA療育のマニュアルを出版しています。日本ではABA療育を早くから行っていたNPO法人「つみきの会」が2000年に日本語訳のプログラムを出しました。

 「つみきの会」には新潟定例会というものがあり、そこで知り合ったご家族にお子さんを病院に連れてきてもらって、臨床研究として、ABA療育を行っているお子さんがどう育っているのかを見ていくことにしました。1年間発達検査や、身長体重の推移、内科診察、ご家族の育児ストレスなども見てきたのですが、1年間フォローしたところ、みなさん心身ともに健康に成長されていることが確認できました。この結果から、当院でもABA小児リハ外来を開設しようということになりました

 

――国立病院機構新潟病院小児科のABA小児リハ外来について教えてください。

 まず、当院のリハビリスタッフ2人に「つみきの会」主催の実技講習を受けてもらいました。スタッフには作業療法や言語聴覚療法をしているバックグラウンドがありましたので、3日ほど講習を受けて実践をしっかり勉強してもらいました。それをサポートする形で当院でもABAリハを行うことになりました。

 アメリカなどの一部の州で公費負担により行っている方法では週に20時間以上の有資格者の家庭訪問によりABA療育を行うこととしています。ABA小児リハ外来は現状、私と、もう2人のスタッフの体制なので、週20時間以上を当院でやるのは難しく、週1回か2週に1回、30分から1時間程度、保護者に家庭でどうABA療育を行っていくか指導したり、サポートをしています。また、保護者が家庭でどのようにお子さんを教えていけばよいのか、一人一人の状況に合わせて最も効果的な方法を提案できればと考えています。

 

――ABA小児リハ外来ではペアレント・サポート・プログラムも行っていますが、概要を教えてください。

 2カ月かけて5回にわたり、5組の保護者を対象に行います。まずはお子さんの保護者にABAの基本的な概念をご理解いただくことから始めます。まずは行動を、よい行動、よくない行動、許しがたい行動、の3つに分けることを説明します。それは、その3つで、親の対応方法が違うからです。

 具体的な方法として大事なことは、「罰を与えない」ことです。ABAでは最初説明したように、「お子さんがしてほしい行動をした時に、褒めるなど褒美を与えると、その行動が増える。一方で、してほしくないことをした後に、反応しないなど褒美を与えないことで、その行動が減る」と考える前提があります。ですから、例えばお子さんがかんしゃくを起こしたり、親の髪の毛を引っ張ったり、唾を吐いたりといった行動を起こしたとき、それはよくない行動か、場合によっては、許しがたい行動になります。許しがたい行動には、毅然とした対応が必要ですが、罰を与えるのではなく、ダメ、と短くはっきり伝えることです。また、よくない行動の場合、基本強く叱ったりしません。強く怒ってしまうと、お子さんにとっては「注目された、声をかけてもらった」というご褒美になってしまい、逆によくない行動が増えてしまう場合もあります。よくない行動を起こしたときは基本的に取り合わず、そういった行動が減ってきたタイミングで、すぐにそれを褒めてあげることが重要です。ですから、怒りたくなっても、親にぐっと我慢してもらうといった指導が重要になってきます。

 これをペアレント・トレーニングと言います。私自身も人の親として、トレーニング、訓練、というと「子育てに関して何か厳しい訓練を受けるようで、抵抗があるのではないか」と感じ、私はもっと「親支援」に近いことがしたくて、当院ではペアレント・サポート・プログラムと呼称することにしました。講義も行うのですが、できるだけ長い時間、参加者に親としての自分のことや、お子さんのことを話してもらうプログラムにしています。

 当院には神経難病などの患者さんの親のグループワークをお願いしている臨床心理士の後藤清恵先生(臨床心理・遺伝カウンセリング研究室室長)がおられて、当プログラムのファシリテーターをお願いしました。大変うまく運営してもらっています。なお、このプログラムは臨床研究として行っており、参加者の費用負担はありません。

 

◆藤中 秀彦(ふじなか・ひでひこ)氏

1989年新潟大学医学部卒業後、1997年同大学院修了。国立病院機構新潟病院臨床研究部長(小児科医)。日本小児科学会専門医・指導医、日本腎臓学会専門医・指導医、評議員、臨床遺伝専門医、日本遺伝子診療学会ジェネティックエキスパート。