輜重兵といったら、どんなイメージを思い浮かべるか | キジバトのさえずり(鳩に執着する男の語り)

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・輜重兵といったら、どんなイメージを思い浮かべるか。
 石坂准尉から、こんな風に言われたことがある。

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「あんた随分と背が高いね(藤本は身長一七七センチメートル)。昔の軍隊に徴兵されたら、間違いなく海軍さんか砲兵になっていたろうね。スマートなやつは海軍、がたいのいいやつは砲兵と決まっているんだよ。俺みたいな背の低いのは歩兵か輜重兵に回されちゃうんだ」

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 背の低い者は、輜重兵に回されてしまうそうである。
 さて、大正期の『尋常小学国語読本』(巻六の38~43ページ)に、輜重兵のことがこう述べられている。

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第十一 入営した兄から

国では初雪が降つたさうだね。こつちは国よりよほどあたゝかだ。洋服は着なれなかつたので、はじめは寒いやうに思つたが、もうなれた。
入営後はじめて此の前の日曜日に外出をゆるされた。昨日はとなり村から来てゐる歩兵の音吉君と二人で町を見物した。お前はなぜ自分の村の人と見物しなかつたかと思ふだらうが、兵には歩・騎・砲・工・輜重の五種があつて、私の村から、今歩兵になつて来てゐるのは私一人だけなのだ。
正作君と大工の松さんは工兵、力松君は砲兵、役場につとめてゐられた下村さんは騎兵、私を入れて村からは五人も出てゐるが、兵種がちがふと、兵舎のあり場所もちがふので、めつたに一しよになることはない。どの町村からも、歩兵が一番多く出てゐるのに、ふしぎと私の村からは私一人だ。其の代り輜重兵の外は各種の兵が出てゐる。輜重兵にも其の中にだれか出るだらう。分家の万蔵君などは小男だから、ひよつとすると輜重輸卒にあたるかも知れない。お前は今の分では大男になりさうだから、砲兵か騎兵になれるだらう。からだをぢやうぶにして、よく学問をべんきやうしなさい。軍隊へ来ても、学校でなまけてゐた者は人一倍苦労をする。其の中に又くはしい事を知らせよう。
十二月十五日  兄から
千太どの

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 小男だと輜重輸卒に振り分けられるかもしれない、とのことである。
 続いて、伊藤桂一『兵隊たちの陸軍史』(番町書房)の87ページに、輜重兵のことが以下のように記されている。

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兵種の中では輜重兵がもっとも水準が高かった。これは戦場で輜重特務兵を指揮する単独任務を負わされるからである。

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 体格は劣っていても、輜重輸卒を指揮する才覚に恵まれていなければ、輜重兵は務まらないようである。
 学校のクラスに必ず一人は、運動音痴のガリ勉がいるものだが、ああいう手合いが輜重兵向きの人間なのであろうか。
 そういえば、『遊撃戦』(テレビドラマ)に出てくる渡一等兵が輜重兵だった。彼は東亜同文書院大学で中国の古代文化を専攻していたことのあるインテリだ。伊藤桂一が述べているイメージどおりの輜重兵といえる。